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『あらゆる文士は娼婦である』石橋 正孝・倉方健作著 白水社 [文学・評論]


あらゆる文士は娼婦である:19世紀フランスの出版人と作家たち

あらゆる文士は娼婦である:19世紀フランスの出版人と作家たち

  • 作者: 石橋 正孝
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2016/10/15
  • メディア: 単行本



本書は、百花繚乱のフランス19世紀文学界の名だたる作家たちを「娼婦」にたとえ、そのパトロンである男たち(つまり、文学史上ふつう脇役である出版社)に光をあてて、それを軸にして当時の作家たち、その交友関係、文学を描き出そうとしたもの。プロローグには《第二帝政から第三共和政へと社会が揺れ動くなかで次第に拡大する出版活動と文学の場に、さまざまな方向から光をあてることを試みた》と記されている。第二帝政は、バルザックが死去(1850)した翌年、ルイ=ナポレオン・ボナパルトのクーデターによって始まる。ビクトル・ユゴーはその弾圧を逃れ、ブリュッセルに亡命する。扱われる時期はそのあたりからである。

紹介される出版社は、日本の「岩波」「角川」のように、個人名を冠されている。エッツェル、ラクロワ、シャルパンティエ、フラマリオン、ルメール、ヴァニエなどである。彼ら、書店創業者たちは書店員からのたたき上げもいれば、家柄よく高等教育を受けたものもいる。もっぱら売り上げを気にするものもいれば、芸術性の高い作品を上梓することを念頭におく者もいる。しかし、いずれにしろ、自分の囲った「娼婦」ともども社会的に上昇することを彼らは願っていた。

最初に、ビクトル・ユゴーの「レ・ミゼラブル」の独占的出版権をめぐる争奪戦が紹介される。そのために「未熟練労働者が四世紀かけても稼げない金額」30万フランが動いたという。さだめし、ユゴーは、コーラ・パールなみの高級娼婦(クルチザンヌ)といえよう。それにくらべ、ヴェルレーヌは、パトロンであるヴェニエに「殺される」。私娼のような最期を迎える。うまく立ち回ったのはゾラである。パトロンを替えながら、生き延びていく。他の「娼婦」たち、フローベル、ボードレール、アナトール・フランス、マラルメの記述も興味深い。

有名なユゴーの「世界一短い手紙」のやりとり、「?」「!」についての記述もそうだが、いかにも事実であるかのように語られる「逸話」が成立するための条件をあれこれ論じていく仕方も興味深い。ふたりの著者の執筆よって本書は成る(1,2章石橋、プロローグ、3、4章倉方、エピローグ・年表は共同)が、全体の論述に一貫性をつよく感じるのは、パトロン(編集者)が優秀であるということか・・。


レ・ミゼラブル 全4冊 (岩波文庫)

レ・ミゼラブル 全4冊 (岩波文庫)

  • 作者: ヴィクトル ユーゴー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2003/09/09
  • メディア: 文庫



ナナ (新潮文庫)

ナナ (新潮文庫)

  • 作者: ゾラ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/12/20
  • メディア: 文庫



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『ラテンアメリカ文学入門』 寺尾 隆吉著 中公新書 [文学・評論]


ラテンアメリカ文学入門 - ボルヘス、ガルシア・マルケスから新世代の旗手まで (中公新書)

ラテンアメリカ文学入門 - ボルヘス、ガルシア・マルケスから新世代の旗手まで (中公新書)

  • 作者: 寺尾 隆吉
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2016/10/19
  • メディア: 新書



ラテンアメリカ文学の昨今の諸事情を鑑み、《「文学史本」の執筆に向けて、機は熟しつつあ》ると感じていたところに、中公新書への執筆依頼があり、それは「渡りに船」であったと著者は『あとがき』に記している。一読者として、まさに、熟した果実を手にすることができたのは幸いである。

著者は《作品の紹介や作家の基本情報を並べて初心者向けの文学案内を作ることではなく、具体的な作品に即して約100年にわたるラテンアメリカ小説の流れを捉え、初心者から専門家まで、幅広い読者層に読み応えのある議論を打ち出すことにあった》と執筆目的を述べる。そうして《喜び勇んで取り組んでみると、期待どおりやりがいのある仕事であ・・った》と記す。

《「新書」という形態を考慮してもっとも悩んだのは、「何を書くか」ではなく、「何を書かないか」、その判断だった》。書くことに満ち溢れていたのであろう。そうした中から、残したもの、残されたものが本書である。ラテンアメリカ文学といっても、取り上げられているのはもっぱら「小説」である。どのように人々の間に受容されていったのか、どのような時代背景でか、芸術的なものから娯楽性の高いものへの変化と読者層・出版社との関係、著者同士の関係など、その論議は興味深い。残すべきを峻別しつつ書き進めたその文章は、たいへんスピード感あふれるもので、ほれぼれしながら読んだ。

著者は、《本書で書きつくせなかった部分に関しては、今後いっそう研究を深め、場を改めて発表することになるだろう》と記している。大いに期待したいところだ。巻末には、年表、外国語文献、本書で言及された作品のうち、邦訳のあるもののリストがあり、100冊ほど紹介されている。
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『世界の8大文学賞 受賞作から読み解く現代小説の今』 都甲幸治ほか 立東舎 [文学・評論]


世界の8大文学賞 受賞作から読み解く現代小説の今 (立東舎)

世界の8大文学賞 受賞作から読み解く現代小説の今 (立東舎)

  • 作者: 都甲 幸治
  • 出版社/メーカー: リットーミュージック
  • 発売日: 2016/09/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



本書は、8大文学賞ガイドであり、各賞を受賞した作家・作品についての識者による鼎談をとおして、現代小説を読み解こうというもの。持ち寄った受賞作品についてのレベルの高い濃密な論議から成る。作家の出自・背景から、作品あらすじ、連想される類似の作品などに話が及ぶ。物語る際の「視点」、「描写」、記憶の処理などの創作上の話もでる。いわゆる「裏話」あり、食べる話あり、ポストコロニアルだのクレオールだの少々むずかしい言葉もでるが、たのしく読める。本書をとおし、評者の思いにおける各賞の重要度、注目度、相対的位置関係が変わった。

以下に、各賞ごとに取り上げられている作品と鼎談者たちのいう「今後受賞して欲しい人」の名をかかげる。実際には、各賞3作品だけでなく、はるかに多くの作品が取り上げられていて、それらも併せて読んでみようという気にさせられる。本書をブックガイドとして、多方面の読書をこれから愉しむことができそうである。評者は、そのような思いをつよく持つだけに、索引が用意されていないのを残念に思う。人名/作品名・索引をぜひ備えてほしいところ。

ノーベル文学賞=アリス・マンロー『小説のように』(新潮社)/ オルハン・パムク『僕の違和感』(早川書房)/ V・S・ナイポール『ミゲル・ストリート』(岩波書店)、『ビスワスさんの家』(未訳) 三人が選ぶ今後受賞して欲しい人=多和田葉子、ジョイス・キャロル・オーツ、ボブ・ディラン、グギ・ワ・ジオンゴ、クリスティーナ・ステッド、イスマイル・カダレ

芥川賞=黒田夏子『abさんご』(文春文庫)/ 小野正嗣『九年前の祈り』(講談社)目取真俊「水滴」(『赤い椰子の葉』収録、影書房) 三人が選ぶ今後受賞して欲しい人=温又柔、上田岳弘、崔実、木下古栗、いしいしんじ、青木淳悟

直木賞=東山彰良『流』(講談社)船戸与一『虹の谷の五月』(集英社文庫)、車谷長吉『赤目四十八瀧心中未遂』(文春文庫)『文士の魂・文士の生魑魅』(新潮文庫) 三人が選ぶ今後受賞して欲しい人=成井昭人、万城目学、馳星周、深緑野分

ブッカー賞=ジョン・バンヴィル『海に帰る日』(新潮社)/ マーガレット・アトウッド『昏き目の暗殺者』(早川書房)/ ヒラリー・マンテル『ウルフ・ホール』(早川書房) 三人が選ぶ今後受賞して欲しい人=チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ、トマス・ピンチョン、ゼイディー・スミス、コルム・トビーン、イアン・マキューアン、アンソニー・ドーア

ゴンクール賞=マルグリット・デュラス『愛人』(河出文庫)/ ミシェル・ウエルベック『地図と領土』(ちくま書房)/ パトリック・モディアノ『暗いブティック通り』(白水社) 三人が選ぶ今後受賞して欲しい人=ローラン・ビネ、ティエリー・ジョンケ、ローラン・モヴィニエ

ピュリツァー賞=ジュンバ・ラヒリ『停電の夜に』/ スティーヴン・ミルハウザー『マーティン・ドレスラーの夜』(白水Uブックス)/ エドワード・P・ジョーンズ『地図になかった世界』(白水社) 三人が選ぶ今後受賞して欲しい人=アレクサンドル・ヘモン、ダニエル・アラルコン、カレン・ラッセル

カフカ賞=フィリップ・ロス『プロット・アゲインスト・アメリカ』(集英社)/ 閻連科『愉楽』(河出書房新社)/ エドゥアルド・メンドサ『グルブ消息不明』(東宣出版) 三人が選ぶ今後受賞して欲しい人=町田康、オルガ・トカルチュク、リュドミラ・ウリツカヤ、セサル・アイラ

エルサレム賞=J・M・クッツェー『恥辱』(ハヤカワepi文庫)/ イアン・マキューアン『未成年』(新潮社)、『贖罪』(新潮文庫)/ イスマイル・カダレ『夢宮殿』(創元ライブラリー) 三人が選ぶ今後受賞して欲しい人=ヴィクトル・ペレーヴィン、多和田葉子、ジョナサン・フランゼン、イーユン・リー、ジュンパ・ラヒリ、エトガル・ケレット


読んで、訳して、語り合う。都甲幸治対談集​ (立東舎)

読んで、訳して、語り合う。都甲幸治対談集​ (立東舎)

  • 作者: 都甲 幸治
  • 出版社/メーカー: リットーミュージック
  • 発売日: 2015/10/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



きっとあなたは、あの本が好き。連想でつながる読書ガイド (立東舎)

きっとあなたは、あの本が好き。連想でつながる読書ガイド (立東舎)

  • 作者: 都甲 幸治
  • 出版社/メーカー: リットーミュージック
  • 発売日: 2016/01/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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