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『学ぶ心に火をともす8つの教え 東大合格者数公立No.1!! 日比谷高校メソッド』 武内彰著 マガジンハウス [教育・学び]


学ぶ心に火をともす8つの教え 東大合格者数公立No.1!! 日比谷高校メソッド

学ぶ心に火をともす8つの教え 東大合格者数公立No.1!! 日比谷高校メソッド




日比谷高校を紹介する本。「東大合格者公立校No1!!」の日比谷高校に、学校の方針を理解した志ある生徒は来て欲しい、と招待する本。かつての日比谷高校の栄光を取り戻し、東大合格者V字回復を成し遂げた校長による8つの教えを伝授する本。

「本書で取り上げる8つの教え=子どもが伸びる条件」をみて、わりに陳腐であると感じたが、読んでいくうち、著者の日比谷高長になるまでの公立校での経験・苦労談を知り、日比谷高長となってからのその実践をみて、たいへん元手のかかった本であると感じ、しっかり読んだ。なによりも、成果を上げているのだから、敬意を表すべきである。

しばらく前、京都府の公立堀川高校の校長:荒瀬克己が『NHKプロフェッショナル 仕事の流儀』で取り上げられたことがある。茂木健一郎司会の頃だ。そこで、一公立高校の取り組みが功を奏して「堀川の奇跡」と呼ばれていた。 http://www.nhk.or.jp/professional/2007/1016/

その番組を思い出し、重ね合わせつつ本書を読んだ。校長の取り組み方ひとつで、短期間でたいへんな成果を上げることができるものである。逆を言えば、取り組み方ひとつで、ダメにすることもあるし、ダメなままにしてしまうこともあるということだ。

「公立の果たすべき役割」(p190)には、私学の中高一貫校と比較しつつ次のように記されている。「たとえ大きなコストはかけられなくとも、たとえ3年間しかなくとも、日常の授業を大切にして、行事や部活にも全力で取り組んだ子どもたちが、普通に東大は入ることができ、将来の日本を支えていくことができる。そこに公立の果たすべき役割があるし、教育力のある学校なら実際にそれが可能だと思います。 / 子どもたちにはこう話しています。 / 「すべてをかんばってきたキミたちが社会でかんばってくれないと困るんだよ」と。 / 公立のプライドかもしれません。」

先生方、保護者の皆さんにとって、大いに参考になるにちがいない。

目次

第1章 「文武両道」に込められた真の意味
条件1 人間力を高める
条件2 よい仲間を与える

文化祭をがんばった子ほど伸びてゆく!
課外活動が育むもの
学力を上げるための意外な近道

第2章 日比谷式「勉強」の作法
条件3 知的好奇心を育てる
条件4 見過ごさない・見落とさない
条件5 寄り添う

子どもはもともと勉強好き
学年全体の学力を上げた3つのシンプルなこと

第3章 教える側が、意識を変える
条件6 把握する

子どもたちの希望を叶える第一歩
教える同士、手をたずさえる
子どもたちの「今」を可視化する
子どものためを想う

第4章 「将来」を意識すると、子どもは動く
条件7 モチベーションを与える

入り口と出口を意識させる
世界に目を向けさせる
モチベーションはあらゆるところにある

第5章 子どもを伸ばすときに、親ができること
条件8 見守る

子どもを伸ばすうえで、もっとも大事な条件とは
誰にでも相談していい環境づくり
子どもが勉強しないときに
親子の理想的な距離
学校との相性を考える



奇跡と呼ばれた学校―国公立大合格者30倍のひみつ (朝日新書 25)

奇跡と呼ばれた学校―国公立大合格者30倍のひみつ (朝日新書 25)

  • 作者: 荒瀬 克己
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2007/01
  • メディア: 新書



プロフェッショナル 仕事の流儀 荒瀬克己  公立高校校長 背伸びが、人を育てる

プロフェッショナル 仕事の流儀 荒瀬克己  公立高校校長 背伸びが、人を育てる

  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2008/03/28
  • メディア: Kindle版



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工夫して、失敗して、納得する(『この世に命を授かりもうして 』から) [宗教]


この世に命を授かりもうして (幻冬舎文庫)

この世に命を授かりもうして (幻冬舎文庫)




千日回峰を行いながら、自分は自然の一部という意識がアタマではなく身体感覚として醸成されていくのだろう。そうした学びが、机上の学びとは異なるものとなるのは間違いない。

上記書籍から、以下引用

***********

僕にはいろんな知識がなかったから、そのぶん、どうしたらいいかな、っていつも考えていたわけだ。

雨が降っているときでも、草鞋で出ていかなきゃいけない。草鞋は藁を編んでいるだけだから、水に濡れるとすぐに駄目になっちゃう。だから最初のころは、「草鞋を濡らさないような方法はないかな」って考えたものだ。

足の先っぽのほうだけつけて、つま先立てて歩いてみたらどうだろうか、とやってみる。だけど、そんなことしても、どこかで水たまりになってるところにドボッと浸かっちゃうんだよ。

「あ~あ」とがっかりする。「どうせ濡れちゃったんだから、もういいや」と思って、開き直って、かかとまでしっかりつけて歩く。そのほうがやっぱり歩きやすいんだよ。当然のことだけど。

そうすると、雨が降ってるときは濡れることになってるんだから、小細工しようったって無理だなあ、って実感するんだ。そんなのはわかりきっていることなのに、それを「自分だけはなんとかなるんじゃないかな」って考えるんだね。人間ってものは。

そんなことをしても駄目、自然を相手にしたらありのままにやるしかないか、って観念するわけだよ。これもまた「無駄な抵抗はやめなさい」なんだよ。

すると、次からは、雨が降っても草鞋が濡れるのは嫌だなあ、なんて思わなくなるんだね。そういうものだから、って納得してるから、気にならなくなる。嫌だな、って思うことがひとつ減り、ひとつ学ぶんだな。

それに、失敗に終わっても、自分でいいこと思いついた、なんて思ってやってるときは、楽しくなってるんだよ。そういうことを考えるのもまた楽しいことだったね。こうやって、あとになってから笑い話にもできるし、楽しいじゃないの。

p122、123
****引用ここまで****

辛く思える人生も楽しくする秘訣が語られている。

著者にとって、死もまた雨の如しというところだったのかもしれない。


行とは何か (新潮選書)

行とは何か (新潮選書)

  • 作者: 藤田 庄市
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1997/08
  • メディア: 単行本



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『この世に命を授かりもうして (幻冬舎文庫)』酒井 雄哉インタビュー [宗教]


この世に命を授かりもうして (幻冬舎文庫)

この世に命を授かりもうして (幻冬舎文庫)




著者は「千日回峰行」を2度満行している。今日的感覚で俗っぽく言うなら「宗教的トレイルランナー」で著者はあった。全盛時であれば「マルコ・オルモも敵ではなかったかもしれない」などと読んでいて思った。

本書は、2013年1月23日に12時間に及ぶ癌の手術を受け退院した後の自坊におけるインタビューである。このインタビューを受けたのが9月上旬。そして、その23日に著者は亡くなった。

それにしては、全体のトーンが明るい。「それは宗教家ですから・・」という意見もあろうが、それにしても活力を感じる。

平易な言葉で衒(てら)いなく正直に語っている。師のひとり箱崎文応阿闍梨を著者は「おじいさん」と呼ぶ。その「おじいさん」の言葉に、「行き道は いずこの里の 土まんじゅう」がある。その意味は「どこで命を落とそうが、いま歩いているその道が自分の墓場になる、ここで朽ちるんだというつもりで歩け、と行をする者としての強い覚悟」の表明である。本書から伝わりくる活力は、師の言葉を自分の生き方とした人物から発せられるものであるからであるのだろう。

著者は「行者だけでなく、普通の人だって」その「つもりで生きたほうがいいんじゃないかと僕なんか思うよ」と屈託ない。いつ死んでも悔いの残らないよう、今を精一杯生きよという師の教えを自ら実践してきた方ならではの屈託のなさであるし、明るさなのだろう。死の直前のインタビューにもその覚悟が反映しているということだ。

表紙写真は、2度目の「千日回峰行」万行のときの写真だという。見ていると思わず笑みが伝染してくる。精一杯生きている人は、それがたとえ“自分の”行であったとしても、他者に良い感化を及ぼすものとなるにちがいない。

人生を歩くことに捧げたという言い方も著者に関して言えるかもしれない。歩くことは生きることで、歩くことを通して命と死について考え続けた著者の歩くことについての話は興味深い。それは、つまり人生についての話ということでもある。

「時を止めた男の教え」鏑木毅(トレイルランナー) 
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2013-06-25


行とは何か (新潮選書)

行とは何か (新潮選書)

  • 作者: 藤田 庄市
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1997/08
  • メディア: 単行本



修行と信仰――変わるからだ 変わるこころ (岩波現代全書)

修行と信仰――変わるからだ 変わるこころ (岩波現代全書)

  • 作者: 藤田 庄市
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2016/09/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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『宮武外骨: 頓智と反骨のジャーナリスト (別冊太陽 日本のこころ 250)』





外骨の甥にあたる吉野孝雄氏が『古今無類の雑誌表現者~新雑誌発行は“性癖”』と題して巻頭の解説を書いている。

《宮武外骨が生涯に創刊した雑誌は実に44タイトルにのぼる。そのうち「創刊即廃刊」したものが17タイトルもあるから、複数号続刊した雑誌は全部で27タイトルということになる。》と書き起こす。

検閲制度のある時代である。「頓智協会雑誌」第28号に明治憲法発布時のパロディとして「頓智研法発布式」を示す。そこにはガイコツが「研法」を下賜する図像。そのために、「玉座の上に骸骨を図したる等は天皇に対し不敬の所為なり」として「不敬罪」で告発され、外骨は3年8カ月の獄中生活を送ることになる。(本文p100、101)

そうした数々のタイトルの中で、比較的長続きした雑誌『滑稽新聞』について吉野氏は以下のように記して、記事を閉じる。

《現代では常識になっている雑誌制作の手法のすべてのルーツがこの『滑稽新聞』にあるといっても過言ではない。むしろ現代を超えているというべきか。印刷技術のすべてを駆使して表現されたユニークな紙面。広告欄や誌面の欄外、時には附録までもが表現の素材となった。美人写真や浮世絵師による華麗な表紙絵に彩られ、「過激にして愛嬌あり」のキャッチコピーのもと、警察署長の収賄容疑、詐欺まがいの売薬、警察の不正、僧侶の堕落、ずさんな検察や裁判官の告発など、近代化の途上にある当時の大阪の地方権力に巣食うさまざまな不正を告発し続けたのだ。

その告発から裁判での検察官や判事とのやりとり、処罰されても動じるどころか喜んで入獄していく様子など、その滑稽な経過の一部始終を逐一誌面に連載した。顧問弁護士をはじめスタッフもすべて同志的に集まった面々ばかりだ。創刊即廃刊の雑誌と同様、いつでも廃刊する覚悟はできていた。八年間も続き成功したのは単なる結果にすぎなかった。

若き日に『頓智協会雑誌』の不敬罪で石川島監獄に入獄していた時、石川島「獄中倶楽部」をでっち上げ、『鉄窓詞林』という詩集の獄中出版を企て、「広告」を印刷配布したところで発覚、けっきょく詩集は幻に終わってしまったことがあった。あらゆる場面で、あらゆる機会に、あらゆる困難に遭遇しても冊子を制作し発行し続ける。外骨にとって雑誌を編集し発行することがすなわち生きることだったのである。》

本書『宮武外骨: 頓智と反骨のジャーナリスト (別冊太陽 日本のこころ 250)』には、そのような《印刷技術のすべてを駆使して表現されたユニークな紙面。広告欄や誌面の欄外、時には附録までもが表現の素材となった。美人の写真や浮世絵師による華麗な表紙絵に彩られ・・》た雑誌のジツブツ、外骨の生原稿の画像等が示されている。

また、外骨の生き様、生涯について知ることもできる。


ジャーナリストが反骨なのはアタリマエ:宮武外骨
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2007-07-29

『大逆事件』と知識人たちと外骨
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2007-07-30


外骨戦中日記

外骨戦中日記

  • 作者: 吉野 孝雄
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2016/05/16
  • メディア: 単行本



宮武外骨伝 (河出文庫)

宮武外骨伝 (河出文庫)

  • 作者: 吉野 孝雄
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2012/03/03
  • メディア: 文庫



外骨みたいに生きてみたい―反骨にして楽天なり

外骨みたいに生きてみたい―反骨にして楽天なり

  • 作者: 砂古口 早苗
  • 出版社/メーカー: 現代書館
  • 発売日: 2007/03
  • メディア: 単行本



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『徳川がつくった先進国日本 (文春文庫)』 磯田 道史著 [日本史]


徳川がつくった先進国日本 (文春文庫)

徳川がつくった先進国日本 (文春文庫)




本書をとおし〈江戸時代の天下泰平が築かれ、維持されて〉いった過程を見ることができる。1637年(寛永14年)の〈「島原の乱」から「生類憐れみ令」にかけての社会の大きな転換が、後の泰平の礎になっている〉。〈この時期に実現した「平和の到来」があったからこそ、江戸時代の社会は、幾多の危機を乗り越え、泰平を維持することができた〉。〈宝永地震と巨大津波にみまわれながらも成熟した農村社会をつくり上げられたのは、平和を背景に知的な農民たちが努力する環境を与えられていたからです。さらにその後の天明の大飢饉で農村社会が破綻に追い込まれると、今度は幕府や藩が民政重視へと転換し、福祉政策の真似事をはじめ、民間社会を支えはじめました。そしてロシアとの対外危機では、幕府が国を守る鎖国観念を醸成することで、その後の華やかな江戸文化の隆盛を守ることができました〉と著者は記す。

1806年の「露寇事件」、1783年の「浅間山噴火・天明の飢饉」、1707年の「宝永の地震・津波」、1637年の「島原の乱」を時代のターニングポイントと捉えている。生命の尊重、人権意識が天下泰平の礎となり、地震・津波・飢饉といった天災を経験する中で、為政者と民との関わりのダイナミズムによって(という表現を著者はしていないが)望ましい支配のあり方が探られ、選び取られていった過程を、時間をさかのぼりながら論じている。

本書の醍醐味は、一般の歴史教科書とは異なるその論述の仕方にある。江戸の昔を語る本ではあるが、現代日本を照射する内容をもっている。今起きている、政治問題等を理解する上での参考にもなる。

徳川様の世は、今よりもずっと上?(磯田道史著『徳川がつくった先進国日本』から) 
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2017-06-26

(以下、目次)

はじめに

第1章 「鎖国」が守った繁栄 1806年(文化3年)
「徳川の平和」の岐点
文化爛熟期に起きたウェスタン・インパクト
ラクスマン、レザノフと日本との出会い
ロシア船襲撃事件
開国論と鎖国論
武力衝突の回避へ
「民命」の重さ

第2章 飢饉が生んだ大改革 1783年(天明3年)
幕府中興の祖、吉宗の行った改革
田沼政治の功罪
前近代の政治は「財政あって福祉なし」
浅間山の噴火から天明の飢饉へ
飢饉が明らかにした政治の矛盾と限界
名代官の時代
幕藩体制の転換

第3章 宝永地震 成熟社会への転換 1707年(宝永4年)
新田開発へと雪崩を打つ
上道郡沖新田の干拓事業
大地震と津波の甚大な被害
環境破壊と自然のしっぺ返し
豊かな農村社会へ

第4章 島原の乱 「戦国」の終焉 1637年(寛永14年)
徳川時代の幕あけ
生瀬(ナマセ)の乱の凄惨な事実
「徳川の平和」への助走期間
島原の乱とは何か
武士が払ったコスト
愛民思想の芽生えと「武断」から「仁政」へ
武家政治の大転換
「平和の到来」をもたらした「生命の尊重」

参考文献 年表


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『重版未定』 川崎昌平著 河出書房新社 [マスメディア]


重版未定

重版未定




マンガである。描いたのは誰かと思ったが、示されていない。著者として示されているのは川崎昌平ひとり。それゆえ、川崎氏が描いたと結論した。著者プロフィルをみると芸大を出ているというのでまちがいないであろう。

それでも、絵画に達者であれば、マンガも上手くいくかといえば、そういうものでもないように思う。著者は、「ネットカフェ難民」で流行語大賞を取っているという。要するに、多彩な能力の持ち主で著者はあるということなのだろう。

本書は、出版の世界、編集者の仕事がわかる本である。しかし、それは大手出版社ではなく、弱小零細出版社のソレである。出版の業界用語がフキダシに、たいへん小さな文字で示される。他業種(デザイナー等)と編集者とのやりとりなど、その工程も主人公の活躍をとおして知ることができる。編集者だけでなく、営業、編集長らの苦労もわかる。

そして、(これは人によるかもしれないが、少なくとも当方には)マンガとしてもオモシロイ。けっこう笑えた。

ソフトカバー製本だが、全体に良い質の紙が用いられている。これで1000円(税別)はいまどき安いと思う。

著者の他の本にも目を通してみたく思う。


重版未定 2

重版未定 2

  • 作者: 川崎 昌平
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2017/05/29
  • メディア: 単行本



流されるな、流れろ!  ありのまま生きるための「荘子」の言葉

流されるな、流れろ! ありのまま生きるための「荘子」の言葉

  • 作者: 川崎 昌平
  • 出版社/メーカー: 洋泉社
  • 発売日: 2017/04/04
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



小幸福論

小幸福論

  • 作者: 川崎昌平
  • 出版社/メーカー: オークラ出版
  • 発売日: 2016/06/16
  • メディア: 単行本



はじめての批評  ──勇気を出して主張するための文章術

はじめての批評 ──勇気を出して主張するための文章術

  • 作者: 川崎昌平
  • 出版社/メーカー: フィルムアート社
  • 発売日: 2016/06/25
  • メディア: 単行本



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『図解 基本ビジネス思考法45』 執筆: 嶋田毅 [哲学]


グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45

グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45




45種の思考法を紹介するハンドブック。

著者は「ちょっと知っておくだけで生産性が上がる思考法を知らないというのは」モッタイナイという。

そして、本書において「先人が提唱し、磨きをかけてきた思考法についてリストアップし、網羅的に紹介」していく。その点で、「中には包含関係にあるものもあるなど、ややレイヤー感や粒度にバラつきもありますが、思考法というテーマゆえの部分が大ですのでご容赦いただければと思います」と(「はじめに」)にある。

「どこまで実践できるかはさておき、まずはさまざまな思考法があることをご理解いただけただけでも本書を手に取っていただいた価値はあると思います。自分自身を振り返りながら『まずはここを鍛えなければ』というものを探し、取り掛かるヒントにしていただければ幸いです。(「おわりに」)」

各思考法ごとに、簡単な説明(以下に引用)。活用できる場面。どのような思考法か、その具体的事例、最後に「コツ・留意点」が簡潔に示されている。

自分の思考のワクの中で堂々巡りに陥ったとき、本書をチラとひもとくだけでも、堂々巡りの回路から脱出できそうである。ただ、少々文字が小さいのが難点。

目次 

1章 クリティカル・シンキング基礎編

論理思考:筋道だった合理的思考様式や方法論。行動的直観的思考と対比される。いくつかの要素技術によって成り立っている。

批判的思考:健全な批判精神を持ちながら、論理的思考ができているか否かをさらに一段上の視点から見る思考。バイアスや思考の罠にとらわれていないかを見極める思考も含まれる。

メタ思考:自分自身を客観視する思考法。自分自身を見つめるもう1人の自分が別にいるというイメージで説明される。

演繹的思考:一般論・普遍的な大前提を個別的・特殊的なケースに当てはめて結論を得る論理的推論の方法。

帰納的思考:さまざまな観察事項からその共通点を見出し、一般論を導き出そうとする思考方法。

科学的思考:事象の生じる原因や仕組みを調べる観察や実験を実施し、その結果を総合的に考察し、その中から規則性を見出し、普遍的な法則を発見する思考。

確率思考:特定の状況のみを考慮するのではなく、それぞれの状況が生じる確率を意識し、期待値が最大になるように意思決定・行動する思考法。

統計思考:意思決定にあたって、統計手法の考え方を考慮する思考。また、統計の落とし穴に陥らないということも含意する。

フェルミ推定:実際の値がすぐに分からない事柄について、比較的手に入れたり推定しやすい情報から概算値を導く思考法。物理学者のエンリコ・フェルミに由来する。

2章 問題発見編

仮説思考:仮の答えである仮説を立てながら(持ちながら)、それを検証し、物事を前に進めようとする考え方。問題解決の基本姿勢でもある。

「Why」思考:①問題の原因を表層的に捉えるのではなく、「Why?(なぜ?)」と問いかけることによって掘り下げて考える思考法。②また、物事がなぜ現在のやり方で行われているかを疑う思考法を指すこともある。

論点思考:真に解決すべき問題を的確に把握し、組織全体として問題解決の効率・効果性を上げようという考え方。

フレームワーク思考:物事の全体像を捉えたり何かを分析・立案する際に、何らかの枠組みを用いることで、その効果率や効果性を上げようという思考法。

本質思考:一般的には、①物事の最重要ポイントを適切に見極めようとする思考法を指す。狭義には、②物事の構造とダイナミズムから、物事の急所を押さえようとする思考法を指す。

複眼思考:多様な視点から物事を見ることで、さまざまなステークホルダーにとって、Win-Winとなる解決策をとろうとする思考法。

俯瞰思考:より高次の視点から物事を見ることで、全体像を把握したり、経営にとって重要なポイントを見逃さない思考方法。

システム思考:独立した事象に目を奪われずに、各要素間の相互依存性、相互関連性に着目し、全体像とその動きを捉える思考方法。

3章 問題解決編

AND思考:①安易にトレードオフに流されずに、物事を両立させながら問題解決を図っていこうという思考法。また、②一石二鳥の施策を積極的に講じる場合にもAND思考という場合がある。

アナロジー思考:似たエッセンスを持つ事例からヒントを得、それを問題解決や他のメンバーへの説明に活かす思考方法。

全体思考:全部を部分に細切れにブレークダウンしていくのではなく、全体を包括的(Holistic)に捉え、問題解決に活かそうという思考法。

4章 クリエーション編

クリエイティブ・シンキング:枠組みにとらわれず、自由な発想を行い、アイデアを出していこうとする思考法。ロジカル・シンキングと対比されることが多い。

水平思考:それまでのものの見方や概念にとらわれずアイデアを生み出す思考法。エドワード・デボノが1967年に提唱した。英語ではラテラル・シンキングと呼ばれる。

ゼロベース思考:既存の前提や常識にとらわれず、物事をゼロベースで考えていこうという思考方法。水平思考の要素ともいえる。

IF思考:「もし○○○という条件がなかったら」あるいは「もし△△だったら」など、「IF」の世界を想像することで、新しいやり方などを生み出そうという思考法。

プロヴォカティブ・シンキング:「たぶんできる。そのためには・・・」と考える発想法。プロヴォカティブ(provocative)の元々の意味は「挑発的」など。

ずらし思考:①視点、ものの見方を変える思考法。②あるノウハウや知見を異なるビジネスなどに応用する思考法。

ビジョナリー思考:壮大なビジョンを描き、それを実現しようという思考法。未来を待つのではなく、未来を自ら作る思考法とも言える。

マインドマップ:頭の中で起こっていることを可視化する思考ツール。トニー・ブザンが提唱した発想法である。ThinkBuzan社が商標登録している。

デザイン思考:デザイナー的な感性と手法を用いて、ユーザーのニーズと技術的な実現性、ビジネスの戦略を整合させていくことで、市場機会を生み出し、実現させていく思考方法。

5章 ビジネス実務編

戦略的思考:①経営戦略の発想法を日常の仕事などにも当てはめた考え方。②ゲーム理論を用い、ゲームの発想を日常業務に当てはめた思考法。

タイムマシン思考:あるテーマについて、世界の最先端で起きている事例や現象に着目し、それを自国や自社ビジネスに活用する思考法。

逆算思考:未来のビジョンや想定される状況から逆算して今なすべきこと、あるいはその過程でなすべきことを考える思考法。バックワードの思考法とも言う。

ニーズ思考:顧客のニーズを優先的に考え、そのニーズを満たそうとする思考法。特に製品開発の場面ではニーズ発想というケースも多い。

シーズ思考:自社が社内に持つシーズをベースに、そのシーズを活用して顧客のニーズを満たせないかと考える思考法。シーズ発想とも言う。

ビジネスモデル思考:ビジネスの仕組みを構造的に考え、どのように儲けたり成長したりするかを考える思考法。

利益思考:①利益をいかに効率よく上げるかを考える思考法。②儲けのメリハリなども含め、トータルとしていかに利益を生み出すかを考える思考法。

チーム思考:変化が速い時代に適切に対応すべく、比較的少人数のチームで問題解決に当たり、組織全体の生産性や競争力を上げようとする考え方。

Not knowing思考:不確実な時代に、「無知」の状態を最大限に活用し、「出現する未来」に柔軟に対応する思考法。スティーブン・デスーザとザダイアナ・レナーが提唱した。

6章 歴史・哲学編

哲学的思考:2000年を超える歴史を持つ哲学の考え方をビジネスに活かそうという思考法。特に深い思索や議論するという行為を重視する。

歴史的思考:世界史や自国の歴史を学ぶことで、人間の本性に対する理解を深め、それを未来に活かしていこうとする思考法。

弁証法:ある命題(テーゼ)と、それと対立する命題(アンチテーゼ)から統合した命題(ジンテーゼ)を導き出すアウフヘーベン(止揚)の考え方をベースとした発展的思考法。哲学者のヘーゲルによって体系化された。

思考実験:実際に実験を行うのでなく、頭の中に前提を置いて「もしこうしたらこうなるのでは」と考えたりシミュレーションを行うこと。

7章 自己啓発編

ポジティブ・シンキングとネガティブ・シンキング:積極的あるいは楽観的な考え方をすること。消極的あるいは悲観的な考え方をすること。

7つの習慣:人生において成功するために必要な習慣を7つにまとめたもの。スティーブン・R・コヴィーによって1989年に紹介された。

ストーリー思考:未来の自分を思い描き、それを実現するためのストーリーを作ることでその実現可能性を高めようという思考法。
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『記者と権力』 滝鼻 卓雄著  早川書房 [マスメディア]


記者と権力

記者と権力




カバー袖には「いまジャーナリストに求められる覚悟とは! 読売新聞東京本社社長巨人軍オーナーを歴任した著者が、「権力者への取材」「記者クラブ」「匿名報道の是非」「朝日新聞と読売新聞の違い」など、現代ジャーナリズムの最重要テーマに切り込む!」とある。

執筆動機については、「プロの役割を果たせるジャーナリストを目指す若い人たち、将来ジャーナリストを一生の仕事にしたいとこころざしを抱いているもっと若い人たちに向かって、少しでも役に立てばと思い立って、この本を書いた。混迷に陥ってしまった今日のメディアの状況が改善されればという願いもあった。(『あとがき』)」と、ある。

著者自身の「駆け出し」時代、社会部記者、司法担当記者としての経験からでた考察は興味深い。ニュースソースの探し方、つき合い方、関わり方、守り方など、具体的事例が示される。民意を知る上で「個別訪問面接聴取法」の有効性や「記者クラブ」の6つの罪についての記述もある。

登場する人物たちも魅力的だ。弁護士喜多村洋一、「朝日新聞記者の中にあって、私が尊敬する人物」疋田桂一郎・深代淳郎、読売新聞の渡邊恒雄記者、「ミスター特捜」と呼ばれた吉永祐介、「ミスター検察」と言われた伊藤栄樹、「司法界の内外から“ミスター司法行政”と皮肉を込めて呼ばれ」著者が告別式で弔辞をよんだ最高裁長官:矢口洪一など。

目次

プロローグ

覚書1 塀の上を歩け
覚書2 ディープスロート
覚書3 権力者たち
覚書4 駆け出し記者
覚書5 書くことと書かないこと
覚書6 西山事件
覚書7 裏世界の紳士たち
覚書8 なぜ匿名報道なのか
覚書9 朝日と読売
覚書10 記者クラブの功罪
覚書11 民意を知る方法はあるのか(トランプ時代の世論)
覚書12 特捜部、出入り禁止
覚書13 裁判をしない裁判官
あとがき


新聞記者 疋田桂一郎とその仕事 (朝日選書 833)

新聞記者 疋田桂一郎とその仕事 (朝日選書 833)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2007/11/09
  • メディア: 単行本



深代惇郎の天声人語 (朝日文庫)

深代惇郎の天声人語 (朝日文庫)

  • 作者: 深代惇郎
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2015/09/07
  • メディア: 文庫



渡邉恒雄回顧録 (中公文庫)

渡邉恒雄回顧録 (中公文庫)

  • 作者: 渡邉 恒雄
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2007/01/01
  • メディア: 文庫



検事総長の回想 (朝日文庫)

検事総長の回想 (朝日文庫)

  • 作者: 伊藤 栄樹
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞
  • 発売日: 1992/01
  • メディア: 文庫



後藤田正晴と矢口洪一: 戦後を作った警察・司法官僚 (ちくま文庫)

後藤田正晴と矢口洪一: 戦後を作った警察・司法官僚 (ちくま文庫)

  • 作者: 御厨 貴
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2016/07/06
  • メディア: 文庫



田中角栄を逮捕した男 吉永祐介と 特捜検察「栄光」の裏側

田中角栄を逮捕した男 吉永祐介と 特捜検察「栄光」の裏側

  • 作者: 村山治
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2016/07/20
  • メディア: 単行本



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「書かないことの重大さ」(滝鼻 卓雄著『記者と権力』から) [マスメディア]


記者と権力

記者と権力




著者は、司法記者として自分のかかわった著名な人物たちをたいへん魅力的に紹介している。そのこと自体が目的ではないが『覚書5 書くこと書かないこと』に登場する「マスコミから厳しく叩かれるような被告人たちの弁護団に加わっていたことで、その名を知られている」喜多村洋一もその一人だ。

喜多村の登場する部分を以下に引用してみる。

*************

喜多村が担当した事件を冷静に観察してみると、マスコミの網にさえ引っかからなかった検察側の“弱点”を見事に見つけ出して、検察側主張の崩壊につなげている。そんな辣腕ぶりが喜多村の魅力だ。

喜多村は、法廷での証人尋問でのテクニックに長けていた。検察側の尋問ミスを巧みに突き、そこから検察官の主張のほころびを広げていく。その法廷技術は並大抵ではない。世間で「悪党」と言われる人物は多々いるが、マスコミ報道によって「悪党」という極彩色で塗り固められた人物を弁護する仕事は、そんな簡単なことではない。事件を依頼されても初めから断ってしまう、腰の引けた弁護士が多い。

でも喜多村は逃げない。

(中略)

喜多村に聞きたかったことは、次の質問だった。

「私も含めて近年のジャーナリストは、プライバシーなどの基本的人権の尊重や個人情報の保護といった“建前”だけにこだわりすぎて、“建前”を理由にして、真実への接近を怠っているのではないか。あるいは“建前”を口実にして、書かなければならないことを書いていないのではないか」

自由人権協会の代表理事を務めている喜多村のことだ。私の問いに反論してくるのでは、と予感していた。

だが喜多村はこう答えた。

「報道の自由とは、情報を受ける市民の知る権利を実質的に保障するものです。ですから報道の自由も人権の一つであり、市民のために十分行使されるべきです。(書くべきことを書かないことは)社会全体で共有すべき情報、公共財としての情報が流通しないことになるのです。ジャーナリストの自己規制が強すぎるのではないかと思います」

(このあと、人権意識の高まりとともに、被告人の名が呼び捨てから「容疑者○○」となったこと、容疑者の過去について報道することが「基本的人権」を損なうという考え方が拡がったことについてふれられ・・)

容疑者の過去とは、出身地や家庭環境、特に教育環境、そして両親・兄弟の事情、本人の犯罪歴、病歴などである。

「犯罪は社会の病理現象である」としばしば言われる。病変の原因を突き止めるために病理解剖が実施されるように、犯罪という病変の源泉を知らなければ、犯罪が起きた背景は解明されない。背景をきちんと書き込まないと、報道の意味はなくなってしまう。

そんな思いがあって、喜多村にさらに質問した。

「(最近川崎で起きた少年事件に関連して)18歳の少年が逮捕されたが、この少年の家族のこと、育った環境、交友関係などを書いてはダメなのか。実名を出したらどうなのか。もちろん少年法の規定は知っているが」

喜多村は、少年の実名を書くことの是非には触れなかったが、「(新聞が)“書かないことの重大さ”を分かっていないのではないか」と言った。

(次いで著者は2015年2月の川崎の事件に言及し、当時マスコミが知りたいことを知るべきことを十分に報道していなかったことについて述べる)

前にも言ったが、犯罪はその時代の病理現象だ。病んだ社会の深部に潜んでいる病理をえぐるのが、犯罪報道であり、社会部に籍を置くジャーナリストたちの使命と言っても大げさではない。ジャーナリストが取材する「事実」とは、警察や検察の捜査機関が提供する事実(有罪を立証するのに必要な事実といってもいい)、さらには裁判所の判決に盛り込まれている犯罪事実(有罪、無罪を決めるために必要な最小限の事実といってもいい)ではない。逮捕状や判決文にある「事実」を探るのは、ジャーナリストの仕事ではない。

川崎で惨殺された少年の周辺にいた、子供たち、大人たちの証言を丹念に拾い集め、さらに犠牲になった13歳の少年と、首謀者と言われている18歳の少年との関係を綿密に調べることで、この事件の最深部に潜んでいる病理が見えてくるはずだ。

ここで大切なのは、取材したすべてのネタをニュースにしてはいけないということだ。取材と報道の間には、基本的人権のフィルターがあるべきであり、その判断を最適化するのがジャーナリストの力量というものだ。基本的人権に関する判断は、取材行為と報道行為の間にあるべき判断であって、取材以前の段階で行うことではない。


犯罪報道は間違った方向へ進んでしまった、と私は考えている。我々はマニュアルばかりをつくり、その結果、取材・報道に新しいニュース価値を見つけようとした者の“芽”を摘んでしまったのかもしれない。

犯行現場に花を手向ける人たちの姿が、毎日映像化されているが、そのような報道は、事件にステレオタイプな感情を植え付けるだけだ。急激に盛り上がった感情は醒めるのも早く、結果として、事件を風化させることになる。最近起きた障害者施設を襲った凄惨な事件でも、同じような映像が連日のように流されている。

再度同じことを言う。読者が真に知りたいことを書く。読者が知りたくないと感じることもあるかもしれないが、それでも知らせなければならないことは書く。

優れたジャーナリストたちは、事件の最深部まで行き着くように努めてきた、と思う。しかし、私に限っていえば、プライバシー、個人情報の保護、基本的人権の尊重という、「建前」にとらわれ過ぎて、真実への接近を困難にする “壁”を作る流れに加担してしまったという反省がある。

喜多村の言う「書かないことの重大さ」をもう一度よく考えてみたい。



騙されてたまるか 調査報道の裏側 (新潮新書)

騙されてたまるか 調査報道の裏側 (新潮新書)

  • 作者: 清水 潔
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/07/17
  • メディア: 新書



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広告主の圧力、政治家の圧力(滝鼻 卓雄著『記者と権力』から) [マスメディア]


記者と権力

記者と権力




著者は、讀賣新聞の記者であり経営者もつとめた方。

「あとがき」によると執筆動機は、次のようなもの。「プロの役割を果たせるジャーナリストを目指す若い人たち、将来ジャーナリストを一生の仕事にしたいとこころざしを抱いているもっと若い人たちに向かって、少しでも役に立てばと思い立って、この本を書いた。混迷に陥ってしまった今日のメディアの状況が改善されればという願いもあった。」

経験に裏打ちされた情報は、たいへん勉強になる。


以下は、ジャーナリストへの「圧力」をどうみなすべきかが記された部分。

******以下、引用******

権力者たち、それが政治家であっても公務員であっても、ときには宗教的な指導者の場合でも、彼らに可能な限り接近して取材することは、ジャーナリストの大切な使命である。中でも国民に知らせたくない秘密を握っている公務員は、本来隠すべきでない事項であっても、ことのほか秘匿したがる。または、ルール上「秘密」であっても、そのルールが間違っていることもある。

最近の「事件」だが、自民党の一部の国会議員が、言うことを聞かないメディアに対しては、広告主を使って圧力をかければいい、というような発言をして問題になった。これに対して、ほとんどのメディア(新聞社やテレビ局の組織メディア)は、「言論への圧力」というとらえ方をした。

しかし私の考え方は少々違う。

まず一部の政治家の新聞社についての理解が間違っている。私の経験でいえば、記者時代も新聞経営に関わった時代でも、広告主の圧力はあったが、それで記事を曲げた経験はない。取材を中止したこともない。中止させたこともない。

いまごろになって例として出されては、その企業には迷惑なことだろうが、1970年代にホンダの小型車が“欠陥車”と指摘されて、社会問題に発展した事件(N360事件)があった。 そのとき私は検察庁を担当していて、欠陥車事件を追っていた。ホンダ関係者とも接触したが、ホンダ車の広告掲載に関して、広告を止めるような“圧力”に直面したことはない。反対にホンダの広報担当が、会社にとって有利な情報も不利な情報も積極的に出してきた記憶の方が残っている。

いまの企業広報の担当者は、広告主という立場を使って、新聞社に圧力をかけることが、企業にとっていかに不利に働くかをよく理解している。

もう一方で間違った理解が見られるのが、メディア側の反応だ。一部政治家の抑圧的な言動を「言論に対する圧力」ととらえていること。政治家がメディアに何らかの注文をつけたとしても、それを「言論への圧力」と感じるのであれば、メディアの力があまりにも脆弱ではないか。

政治家の言動を「圧力」と感じるか、それとも「言論と公権力との闘い」と受け止めるのかによって、闘いの中心線は全然違ってくる。

「われわれは圧力を受けている被害者だ」というのは、受け身の姿勢に見える。反対にジャーナリズムを「公権力をはねのける闘い」ととらえれば、それはメディアの積極的な姿勢に映る。この二つの姿勢の違いは大きい。二つのスタンスを見比べるとき、ジャーナリストが本来備えているべきマグマ(その時代の重大な事実をつかもうとするエネルギーのようなもの)がどこかへ消えてしまったのでは、とはっと気がつく時がある。

国家のリーダー、自治体のガバナー、労働団体の指導者、宗教組織の指導者、経済界における成功者等々、絶対的な権力を握っている者は、ジャーナリストを「味方」とはけっして考えていない。むしろ「敵」あるいは「厄介な存在」とみている。もう少し噛み砕いて言えば、絶対的な権力者は、自身に都合のいい折には「味方」につけて、自身の進行に邪魔になったら「敵」と考えて排除したがるものだ。

**以上『覚書3 権力者たち』から**

週刊文春が目指すもの(「週刊文春」編集長の仕事術 から)
http://kankyodou.blog.so-net.ne.jp/2017-05-30-1


「週刊文春」編集長の仕事術

「週刊文春」編集長の仕事術

  • 作者: 新谷 学
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2017/03/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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