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哲学者は「アブ」(『若い読者のための哲学史』すばる舎 より) [哲学]


若い読者のための哲学史 (Yale University Press Little Histor)

若い読者のための哲学史 (Yale University Press Little Histor)

  • 作者: ナイジェル・ウォーバートン
  • 出版社/メーカー: すばる舎
  • 発売日: 2018/04/25
  • メディア: 単行本



「質問し続けた男」というタイトルでソクラテスから論じはじめた著者が最後に取り上げるのはピーター・シンガー。そのまとめの部分から哲学と哲学者について著者がどのように考えているかがわかる。

結論からいうと「アブ」。

オモシロイので以下に引用してみる。

**********

ソクラテスの先例にならうかのように、シンガーはリスクを負って、わたしたちがいかに生きるべきかを発言した。講演会が抗議を受けたこともあるし、殺害の脅迫にも遭った。それでもなお、哲学の最良の伝統を体現し、社会通念に絶えず挑み続けている。みずからの哲学に従って生き、ほかの人の意見に異を唱えるときは、公の場で議論を交わして周囲の人々の主張に挑んでいる。

もっとも重要なのは、シンガーが十分に調べた事実をもとに筋のとおった議論を組み立て、みずからの結論を裏付けていることだ。シンガーと意見を異にする人でも哲学者としての彼の誠実さは理解できるだろう。結局のところ、哲学は議論によって発展する。立場が異なる人々が、論理や根拠をもとに意見を交わすことで前進するのだ。たとえば、動物に対する倫理観や、安楽死を道徳的に受け入れられるとする状況に関するシンガーの主張に賛成できないなら、シンガーの著書を読んでみるといい。あなた自身が本当は何を信じているのか、それが事実、根拠、原則にいかに裏付けられているかをじっくりと考えることができるかもしれない。

哲学は厄介な問いや困難な挑戦から始まる。ピーター・シンガーのように社会通念を疑い、批判も辞さないアブのような哲学者たちがいれば、これからもソクラテスの精神が哲学の未来を形づくっていくだろう。

(p278,279「現代のアブ」)


アブ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%96



私たちはどう生きるべきか (ちくま学芸文庫)

私たちはどう生きるべきか (ちくま学芸文庫)

  • 作者: ピーター シンガー
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2013/12/10
  • メディア: 文庫



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『若い読者のための哲学史』 ナイジェル・ウォーバートン著 すばる舎 [哲学]


若い読者のための哲学史 (Yale University Press Little Histor)

若い読者のための哲学史 (Yale University Press Little Histor)

  • 作者: ナイジェル・ウォーバートン
  • 出版社/メーカー: すばる舎
  • 発売日: 2018/04/25
  • メディア: 単行本



追悼文を読むときに、これ以上のものは書けないのではないかと思われるものが時にある。故人との公私の深い関係からくる溢れる思いが、そこで完結していて、足すも引くもできない。そして、心に響いてくる。

そう書くとほめ過ぎかもしれないが、本書で取り上げられた個々の哲学者たちについて読むときにも、そのような感がある。いくら長生きでも、著者がソクラテスと知り合いのわけがない。それでも、いろいろ文献を渉猟し、ソクラテス個人について、彼の生きた時代について、当時の人々との関係や次世代の哲学者たちとの関係をふかく考えてこられたからであろう。そのように親しくしてきた思いが、溢れてここに完結したという感じなのだ。一読者として、著者同様、ソクラテスをはじめ、他の哲学者たちと親しく個人的に接したおぼえはないわけだが、そう感じるのは不思議だ。そこが、 ナイジェル・ウォーバートンが「哲学入門書の著者として非常に人気があ」るゆえんなのだろう。

文章は、自由自在で、どこからでも論じることができそうな雰囲気がある。ひとりの哲学者について語り、次の哲学者を紹介して終わるというカタチをとっている。個々の哲学者のエピソードと思想について概要を単に示すというのでなく、たとえが多用されて魅力的である。デカルトの有名な「われ思う、ゆえにわれあり」や、カントの『純粋理性批判』にある「物自体」や「ア・プリオリな総合判断はいかに可能か」の解説など、目が覚めるように(少なくとも評者は)感じる。そのようであるから、一見難解に思える論議も、つまずくことなく通読できる。それもまた本書の魅力である。

(以下、「目次」) 1 質問し続けた男(ソクラテス、プラトン) / 2 真の幸福(アリストテレス) / 3 わたしたちは何も知らない(ピュロン)/ 4 エピクロスの園(エピクロス) / 5 気にしないことを学ぶ(エピクロス、キケロ、セネカ) / 6 わたしたちを操るのは誰か(アウグスティヌス) / 7 哲学の慰め(ポエティウス) / 8 完璧な島 (アンセルムス、アクィナス) / 9 キツネとライオン (ニッコロ・マキャベリ) / 10 下品で野蛮で短い (トマス・ホッブズ) / 11 これは夢なのだろうか (ルネ・デカルト) / 12 賭けてみよ (ブレーズ・パスカル) / 13 レンズ磨き職人 (バルーフ・スピノザ) / 14 王子と靴直し (ジョン・ロック、トマス・リード) / 15 部屋のなかのゾウ (ジョージ・バークリー、ジョン・ロック) / 16 すべての可能世界のうちで最善のもの? (ヴォルテール、ゴットフリート・ライプニッツ)/ 17 想像上の時計職人 (デイヴィッド・ヒューム) / 18 生まれながらにして自由 (ジャン=ジャック・ルソー) / 19 バラ色の現実 (イマヌエル・カント ①) / 20 「誰もがそうするなら?」 (イマヌエル・カント ②) / 21 功利的至福 (ジェレミー・ベンサム) / 22 ミネルヴァのフクロウ (ゲオルク・W・F・ヘーゲル) / 23 現実の世界 (アルトゥル・ショーペンハウアー) / 24 成長するための空間 (ジョン・スチュアート・ミル) / 25 知性なきデザイン (チャールズ・ダーウィン) / 26 命がけの信仰 (セーレン・キルケゴール) / 27 団結する万国の労働者 (カール・マルクス) / 28 だから何? (C・S・パース、ウィリアム・ジェームズ) / 29 神は死んだ (フリードリヒ・ニーチェ) / 30 仮面をかぶった願望 (ジークムント・フロイト) / 31 現在のフランス国王は禿げているか (バートランド・ラッセル) / 32 ブー! フレー! (アルフレッド・ジュールズ・エイヤー) / 33 自由の苦悩 (ジャン・ポール・サルトル、シモーヌ・ド・ボーヴォワール、アルベール・カミュ) / 34 言葉に惑わされる (ルートヴィッヒ・ヴィトゲンシュタイン) / 35 疑問を抱かなかった人 (ハンナ・アレント) / 36 間違いから学ぶ (カール・ポパー、トーマス・クーン) / 37 暴走列車と望まれないバイオリニスト (フィリッパ・フット、ジュディス・ジャーヴィス・トムソ) / 38 無知による公平 (ジョン・ロールズ) / 39 コンピューターは思考できるか (アラン・チューリング、ジョン・サール) / 40 現代のアブ (ピーター・シンガー)

ナイジェル・ウォーバートン
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%82%A4%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%B3

https://en.wikipedia.org/wiki/Nigel_Warburton
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レビュー『本質がわかる哲学的思考』 平原 卓著 ベストセラーズ [哲学]


本質がわかる哲学的思考

本質がわかる哲学的思考

  • 作者: 平原 卓
  • 出版社/メーカー: ベストセラーズ
  • 発売日: 2018/04/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



著者は『読まずに死ねない哲学名著50冊(フォレスト出版)』の著者である。「哲学者・竹田青嗣教授に師事し、卒業後も薫陶を受けつづけている」とフォレスト出版のプロフィルに紹介されている。哲学者:竹田青嗣といえば、子ども向けの『はじめての哲学』という分かりやすい本の著者である。なるほど、師の薫陶を受けて分かりやすい本を書くことに努めているのだなと思う。本書をざっと通読した後、ネット検索すると、師:竹田と兄弟子:苫野一徳との対談(2014年 7月12日、リブロ池袋本店にて開催されたトークイベント)をみつけた。7ページにわたるその内容を見ると、本書の論議とたいへん似ている。その主張から言ってもやはり竹田の弟子筋であると分かる。以下、その対談から抜粋してみる。だからと言って、本書が無意味となるわけではない。対談をより、充実させたものとも言える。

《哲学は、後の哲学者が、前の哲学者の原理を受けて、これをもっと普遍的なものに前進させていくゲームです。ヨーロッパ哲学はそうなっている。 / そうした原理をさらに吟味して強力で普遍的なものにしていくリレーが、近代哲学では続いた。でも、そういう営みが、いまは世界中で埋もれてしまってる。 / 原理がないということが本当にわかると、私たちははじめて次の考え方を出そうとして努力します。原理がない場合は、それをはっきりさせることが哲学の重要な役割なんです。 / 哲学というのは、物事の、あるいは問題の「本質」を洞察することで、じゃあその問題をどう解けるかという考え方、つまり「原理」を出すものだ / こうした考え方がなければ、手すりなき、地図なき社会論になるんですね。そうした「本質」「原理」を、現代の哲学者はもっともっと追いつめて考えないといけない。 / ただ、哲学の原理は、基本的に長いスパンで考えないといけない。 / 「原理」って聞くと、絶対の真理とか、あるいは原理主義みたいなイメージをしちゃうんですが、哲学でいう「原理」っていうのは、全然違います。それは、できるだけみんなが、「なるほどそうだ」って言える「考え方」のことなんですね。だから、原理主義とはむしろ正反対で、「これが真理だ」と強弁するんじゃなくて、哲学の言う「原理」っていうのは、みんなの納得が得られてはじめて「原理」と呼べるんです》。(「×(かける)哲学」プロジェクト 〈実践の知〉に〈哲学の知〉をひとつまみ から)

http://timesphilosophy.blogspot.com/#!/2014/08/blog-post.html

本書「はじめに」で、著者は次のように記す。上記抜粋とたいへん似ているように思うがいかがだろう。「過去の哲学者たちが、それぞれの時代の問題に対し、どのように立ちむかったのか、その点を踏まえたうえで、哲学の根幹をなす思考の原理をつかみ、私たち自身の問題に取り組むための方法を洞察すること。ここに哲学を学ぶことの重要な意味がある。 / 哲学は、いわば思考のリレーである。時代のうちで、より誰もが納得できる考えを導くべく試みてきた、哲学者たちの努力の軌跡である。その過程で生み出された方法を用いて、現代の問題に取り組むこと、この点に、私たちがいま哲学を学ぶことの意味がある。 / 哲学の歴史は、本質をめぐる論議の歴史であり、哲学の難しさは、本質を論じることの難しさと深く関わっている。本質を適切に論じる方法をつかむことができれば、哲学の意味や目的、哲学的思考の意義や可能性を深く了解することができる。そのとき私たちは、過去の哲学に頼らず、自分たちで考える力を手にしたといえるはずだ。本書が、そうした力を身につけるための一つの助けとなれば幸いである。」


はじめての哲学 (楽しい調べ学習シリーズ)

はじめての哲学 (楽しい調べ学習シリーズ)

  • 作者: 竹田 青嗣
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2014/06/25
  • メディア: 単行本



はじめての哲学的思考 (ちくまプリマー新書)

はじめての哲学的思考 (ちくまプリマー新書)

  • 作者: 苫野 一徳
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2017/04/05
  • メディア: 新書



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目次 『本質がわかる哲学的思考』 平原 卓著 ベストセラーズ [哲学]


本質がわかる哲学的思考

本質がわかる哲学的思考

  • 作者: 平原 卓
  • 出版社/メーカー: ベストセラーズ
  • 発売日: 2018/04/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



序章 哲学の方法 (より深く考えるために)
哲学のイメージ
哲学の種類
哲学の目的
本質と信念対立
  本質をめぐる信念対立
認識問題
デカルトの登場
〈正解〉から〈了解〉へ
現象学の考え方で、共通了解を
現象学的還元と本質直観
私たちの「答え」を作るための哲学
  哲学の動力源
  哲学の鑑賞眼ーデカルトからのアドバイス
  根本から考える

第1章 本質の哲学 (「対話」という方法)
哲学の始まりーータレス
イデア説
  想起説
  想起説の説くもの
  対話によって共通了解を作り出すーーディアレクティケー
本質は「どうでもよい」もの?
  本質は、経験の一貫性に支えられた確信像である
  近代哲学の場合ーートマス・ホッブズ
  プラトンの場合
  善悪の共通了解を根本から作りなおす
魂の配慮ーー内面の吟味
  魂を配慮するために、善のイデアを知る
  共通了解メソッド
美のイデア (恋愛における「あこがれ」)
  恋愛の「狂気」
  「狂気の」挫折と、「地上」の恋愛
  恋愛、これからの哲学的課題

第2章 道徳と良心 (自由と善をつなぐもの)
根本問題、いかに自由と善を両立できるか
  近代以降の善のありかーー道徳と良心

カントーー道徳の哲学
  認識論から善悪の問題へ
  カントの認識論ーー共通の認識能力を備える
  ・ 認識能力の共通性と、共通の認識 / 理性の力
カントの道徳論ーー法則としての道徳
  ・ 格律と定言命法ーー要求にあらがい、善へと向かう / 自己自身のルールを吟味すべし
カントに対する2つの批判ーーヘーゲルとニーチェ
  ・ 道徳の独善性

ニーチェーー価値の哲学
  自由とニヒリズムーー価値の無根拠化
  ニーチェの認識論ーー「力」に相関した価値解釈
  ・ 認識は、欲求や関心に応じた解釈である / 解釈の「光源」を探究する
ルサンチマンーー道徳や真理を生み出す動機
  ・ 言葉による自己了解
自由な良心ーー約束する力
  ・ 良心のもとで、自由と善は両立しうる
良心の言葉と共通了解

ヘーゲルーー自由の哲学
  ヘーゲル哲学の評価軸
  ・ ヘーゲルの歴史観ーー自由が現実化してゆく過程
ヘーゲルの自由論
  ・ 「よい」欲求を選び取る / 「人格の相互承認」が自由の根拠 / 道徳ーー普遍的な正しさを目がける意志 / 良心とイロニー、「正解」なき善悪 / 「断言」する言葉で、善の共通了解を試みる
自由と善は、共通了解によって両立する
  ・ 現代の自由論に向けて

第3章 共通了解 (言葉と可能性)
  言葉の秩序としての人間世界
  自由と近代の夢
  言葉が「はじまり」を生み出す

ヴィトゲンシュタインーー分析哲学の創始者
  『論理哲学論考』--言語、世界、神秘
  ・ 論理実証主義ーー『論理哲学論考』の主義化 / 論理実証主義への批判ーークワインによるホーリズム
  『哲学探究』--言語ゲーム論
  ・ 言葉が伝わるとはどういうことか / 家族的類似性ーー言語ゲームには類似のみが存在する / 生活形式ーー言語ゲームの成立条件
論理実証主義と相対主義
言語の本質直観へ

言葉、可能性、共通了解
  主義としての独断論
  共通了解の意味
  失望を乗り越えるために



読まずに死ねない哲学名著50冊 (フォレスト2545新書)

読まずに死ねない哲学名著50冊 (フォレスト2545新書)

  • 作者: 平原 卓
  • 出版社/メーカー: フォレスト出版
  • 発売日: 2016/03/06
  • メディア: 新書



「哲学って何?」(『はじめての哲学 賢者たちは何を考えたのか?』 竹田青嗣 著 PHP)  
http://kankyodou.blog.so-net.ne.jp/2015-11-27

はじめての哲学 (楽しい調べ学習シリーズ)

はじめての哲学 (楽しい調べ学習シリーズ)

  • 作者: 竹田 青嗣
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2014/06/25
  • メディア: 単行本



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アラン著『わが思索のあと (中公文庫プレミアム)』 森有正訳 [哲学]


わが思索のあと (中公文庫プレミアム)

わが思索のあと (中公文庫プレミアム)

  • 作者: アラン
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2018/02/23
  • メディア: 文庫



早大名誉教授清水茂先生の読書をめぐる講演を聞いた際、その考えが「ラディカル」であるという表現で、アランを紹介しておられた。と同時に、用いられているフランス語がむずかしく(翻訳次第では、意図がきちんと掴めない)ようなお話もされていた。その「ラディカル」に触れるべく、本書を手にした。

早大名誉教授清水茂先生お奨めの本
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2008-03-03

本書の内容紹介には、次のようにある。〈『幸福論』で知られる哲学者アラン。その柔軟な思考と健全な精神はいかに形成されたのか。円熟期を迎えた著者が師との出会いからプラトン、ヘーゲルなどの哲学、第一次大戦の従軍体験、さらに唯物論、宗教まで繊細な筆致で綴る。稀有な思想的自伝全34章。新たに人名索引を付す。〉

それでまた、その精神形成史をたどるべく本書を手にしたのだが、むずかしい。そもそも、予想にまったく反している。渡部昇一著「青春の読書」のような、師友との交わり、読書の影響を詳細かつ具体的に示していく本ではない。まさに「わが思索のあと」をたどる本なのである。そうした「思索」の中に、私的なことがはさまれているといった具合なのだ。

著者の執筆態度については、冒頭から次にようにしめされる。〈私は打ち開け話を好まない。そのために私は、小説の形式においてすら、私生活に属することは何も〔これまで〕書き得なかったほどなのである。その理由は恐らく、私が私生活のことを考えるのを余り好まないからであるか、あるいはそういうことをしなくても、これまで私生活に別段不足を感じなかったからであろう。私は忘却し、再びやり始めるすべを心得ていた。そしてこのような実践的方法を用うると箴言風(マクシム)のものしか書けないことになる。そういうやり方では、物語(レシ)は寸断されてしまったからである。自らを語らないということは、その場合、忘却へ導く、しかも殆ど容赦するところのない、一種の規則なのである。(p9「少年時代」)〉

だから、そういうものと覚悟して読むしかないのであるが、上記引用部分も、「あるいは」以降、ついていくのが難しくなる。「忘却」「規則」と述べることで執筆姿勢について述べているのだろうように思うが、この部分だけではすんなり分からない。そういう記述が、のちの本文全体を覆っている。「あるいは」などの接続語で、思索を振る。右に左に振りながらヨットが風上に向かうように前進していく、著者の思索に付き合うには、辛抱強さが求められる。

本書を訳出したのは森有正だ。学校時代の授業で森の哲学的エッセイが扱われたときのことを思い出した。そして、そのときの難渋した思いを再び感じた。森はアランの影響をたいへん受けているように感じる。

“古典名訳再発見”シリーズの一冊ということであるが、「再発見」ということであれば、詳しい章・節ごとの解説、注など付してほしいところ・・・。(以下、目次)

少年時代 / 青年時代 / ラニョー / 〔高等師範〕学校 / ロリアン / 政治 / 抽象的思索 / ルーアン / パリ / 『語録』 / プラトン / カント / コント / 暗中模索 / 信仰 / 自由 / 戦争 / 軍隊 / 芸術 / 帰還 / 詩人達 / 聴講者 / 思想と年齢 / ヘーゲル / ヘーゲルとアムラン / 再びヘーゲル / デカルト / 唯物論 / 高邁なる心 / 感情 / 人間嫌いの拒否 / 神々の方へ / 物語 / 諸宗教 新版あとがき 解説・過去の経験を思想化すること(長谷川宏) 人名索引


幸福論 (岩波文庫)

幸福論 (岩波文庫)

  • 作者: アラン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1998/01/16
  • メディア: 文庫



渡部昇一 青春の読書(新装版)

渡部昇一 青春の読書(新装版)

  • 作者: 渡部昇一
  • 出版社/メーカー: ワック
  • 発売日: 2018/04/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


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『観の目――ベルクソン『物質と記憶』をめぐるエッセイ』 渡仲 幸利著 岩波書店 [哲学]


観の目――ベルクソン『物質と記憶』をめぐるエッセイ

観の目――ベルクソン『物質と記憶』をめぐるエッセイ

  • 作者: 渡仲 幸利
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/12/14
  • メディア: 単行本



哲学的エッセイ。ベルクソン『物質と記憶』をめぐって話は展開する。たいへん勢いのある論述である。以下、ながながと引用させてもらうが、「この本からオマエは何を学び、どう活かすつもりか?」と問われたなら、イメージをもって指し示したい。それは、横山大観の『屈原』である。寒風吹きまくるなか、風のなかにひとり立つイメージが浮かぶ。生身のからだひとつで世界に立ちむかう姿である。そんな勇気を本書からもらった。哲学者ベルクソンの思想そのものというより、その生き方に思いがいたった。それは、小林秀雄への思いでもある。今、小林秀雄の『本居宣長』を枕にしている。途中で読むのをよして、それきりになっていたのだ。小林が「出版を禁じた」という『感想』とともに読みたく思う。そしてもちろん、ベルクソンも・・・。

『本居宣長』小林秀雄著 入手
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2015-09-10

巻頭エッセイ〈「観の目」とぼく〉では、「ぼくのなかのベルクソンには小林秀雄が絡みついている」ことが示される。「思えば、ベルクソンでもドストエフスキーでも本居宣長でも、すべて小林秀雄が教えてくれた」という。そして「それらすべての共通項が、『観』なのである」という。宮本武蔵の言葉「観の目強く、見の目弱く見るべし」が紹介されたあと、空手家の大山倍達(から貰った手紙)に話はとび、それからふたたび小林秀雄が取り上げられる。亀井勝一郎の言葉が引用される。「明治生まれの文士には、剣を筆に持ちかえた武人といったところがあるが、小林秀雄はまさにそういう文士なのだ」。p004、008

そして、小林秀雄の未完の(完成させなかった、「出版を禁じた」)ベルクソン論「感想」に話が及ぶ。〈ぼくには想像することしかできないが、小林の心眼にははっきり見え、それが、小林に仕事を中断させたためだと思う。そこへ書き及ぼうとするその瞬間に違和感だけを残してすりぬけてしまうなにか絶対的ともいえる観を、きっと小林は感じていた。それをことばへと創造させてくれるような信仰の伝統や慣習が、この列島の生活のなかでは非常に入り組んだことになってしまっている。・・略・・観とは、こうした困難が見えてくることをいう、とも考えられる。「自分の精通している道こそ最も困難な道だと悟った人」、という表現が『私の人生観』に出てくるが、この悟りこそ観だと小林はいうだろう〉。p014

小林の「中断」と関係するのだろうか。著者は、ベルクソンの激しさに注意を向ける。〈『思考と動き』のイントロダクションの最後の部分に、こうある。わたしが真の哲学に方法に開眼したのは、ことばによる解決を投げ棄てた日である、と。ベルクソンは、最初の観の手ごたえに襲いかかられた日のことをいっているのである。耳も聞こえず口も利けない者のような苦しみのなかからはじめた、といっているのである〉。そしてデカルトに話しが及ぶ。〈デカルトは、書物による学問をまったくやめてしまって、世間という大きな書物を読む旅に出た。ふたりとも、まったく過激に見えないのは、内的革命を行なったひとたちだからである。ふたりとも、あらゆるものが頭で解消できない本質的な抵抗を見せるまで、時間を惜しまず見つめた。そのとき、観の目の働きは、内からさらに観の目を破る新しさのはてしない開花となった〉。p016

以上、冒頭エッセイを抜き書きしたが、本文中(「観の目」第2章)からも引用してみる。知覚と記憶に関する論議から〈けっして哲学の秀才なんかでなかったベルクソンは、およそことばによる解釈というものでは納得が行かず、ことばによる解釈を投げ棄てていた。つまり、ほんとうにものを知りたいと考えた。ものを観る努力を直観と呼び、これだけを自分の「方法」とした。そういうかれには、イマージュを脳による人工物と見る見かたが、なんとのんきな、なんとぜいたくな「方法」だと思われただろうか。・・中略・・脳の生理学ですべてがすむという魔法の杖の一振りは、なんら自分の心身活動を高めるものではなく、説明のための説明でしかなかった。そんな哲学など、やる気もしなかっただろう〉。p076 

宮本武蔵に関する論議から〈誤解されやすいが、武蔵は『五輪書』に、訓練と実戦の経験から得た哲学を書き残そうとしたのではない。かれがしたことは、実戦によってそういう哲学を切り捨てることだった。それは、極度の実用主義者による哲学批判だったといえる。およそ哲学と現代人が呼ぶものを、武蔵がどんなにきらっていたかが、『五輪書』には現れている。禅の思想にさえ、かれは頼ろうとしなかった。 / かれは「勝つ」行為しか信じない。「勝つ」には、じっさいの行為によって、わが身ひとつで「勝つ」のである。かれにいわせたら、哲学とは、説明あるいは説明の方法でしかないというだろう。説明することと知ることとは別である。説明なら、哲学を聞き慣れ、哲学を話し慣れた学生であればできる。ところが、知るには、ほんとうに知って納得するには、わがこころひとつで知るほかない。・・〉p089


新しいデカルト

新しいデカルト

  • 作者: 渡仲 幸利
  • 出版社/メーカー: 春秋社
  • 発売日: 2006/07
  • メディア: 単行本



小林秀雄の『本居宣長』を、「オカルティズムで読み解い」た『古事記・宣長・小林秀雄 オカルティズムの系譜として』は、下記書籍所収されているもよう。

新常識主義のすすめ (1979年)

新常識主義のすすめ (1979年)

  • 作者: 渡部 昇一
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1979/09
  • メディア: -




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『哲学がわかる 因果性』 岩波書店 [哲学]


哲学がわかる 因果性 (A VERY SHORT INTRODUCTION)

哲学がわかる 因果性 (A VERY SHORT INTRODUCTION)

  • 作者: スティーヴン・マンフォード
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/12/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



「因果性」とは何か?ちゃんと哲学用語として存在している。Causation と表紙に示されている。また、ウィキペディアには Causality で立項されている。しかし、評者は知らなかった。本書・表紙の題字を見て思いに浮かんだのは、「原因と結果の関係のこと?」、「仏教でいう因果応報?」、そして、「風が吹けば桶屋がもうかる」に思いは飛んだ。

原因があって結果がある。ある結果が生じたからには、その原因となる事象がある。というわけで、そこから原因探しをはじめる。生じた結果と時間的に、また距離的に近いところにある何かが原因として特定される。犯罪捜査なら、犯人にまつりあげられる。しかし、本書をとおして、それはきわめて短絡的なモノの見方・扱い方であると感じている。そして、「風が吹けば桶屋がもうかる」の方があるいは正しいのかもしれないなどとも思う。いずれにしろ、因果関係とは、深いものなんだなあと感じている。

第1章は次のように始まる。「ネズミが襲来して街に殺到する。道路を埋めつくし、ゴミ箱をあさり、家に入ってくる。街の人たちはこのような光景をかつて見たことがなく、侵入するネズミを追い払って駆除しようと試みるものの、失敗に終わる。ネズミが最初に現れた数日後、胃の調子がおかしくなって病気になる人が出始める。中には命に関わる場合もある。病気は広がり、街の住民の過半数が感染する。ネズミの侵入も、伝染病も、この街にはそれまで起こらなかったことである。すると、次の疑問を抱く人が出てくる。ネズミが病気を引き起こしたのだろうか。 / これがネズミのせいなのは明らかなように見えるかもしれない。その地域の環境に新たな要因が入ってきて、それに続いてすぐに病気の蔓延が起こったのである。だが本当に、一方のものごとが他方のものごとを引き起こしたのだろうか。もしかすると、ネズミが現れた直後に人々が病気になったのは、ただの偶然の符合かもしれない。あるいは、病気を持ち込んだ何か別の要因があったのかもしれない。ある若い女性がちょうど、外国旅行から体調を悪くした様子で帰ってきたところだった。彼女が病気を持ち帰ったということもありうる。 / 以上の問題は、原因を特定することの重要さを示している。もし、病気が蔓延し続けていることがネズミに起因するのなら、ネズミを封じ込めるなり根絶するなりすることは、おそらく高い優先順位を持つだろう。だが、もし原因が別のところにあるのなら、ネズミ問題は後まわしにできる。 / しかし、それ以前の疑問が一つある。一つのものごとが別のものごとの原因であるとはどういうことかについて、あらかじめ何らかの理解が得られていなければ、病気であれ何であれ、その原因を探すことにそもそもどうやって取りかかることができるのだろうか。これがあれの原因だと言えるようになる前に、私たちは当然、因果性とは何かを知っていなければならないのではないだろうか。私たちは、因果性の理論を必要としている。そして、個別の因果的な主張をする人は、ともかく何らかのそのような理論を手にしているのでなければならない。そうでなければ、その主張は中身がないことになるだろう」。

そして「本書は、因果性の主要な諸理論、さらにそれをとりまく議論や論争へと読者を案内するものである。原因が結果を産み出すのは、結果を保証することによってであろうか。原因は結果に先立たなければならないのだろうか。因果性は物理学の扱う力に還元できるであろうか。そして、因果性を単一のものごとと考えることはそもそも正しいのだろうか(「はじめに」)」との問いに答えようとするものでもある。

海外では、因果性の哲学に関するリーディングスやハンドブックが出版されて、この分野は活況を呈しているらしいが、「現状では、因果性の哲学を主題的に扱った日本語で読める本はあまりない(「日本の読者のための読書案内」)」という。つまり本書は、その数すくない中の貴重な一冊ということになるのだろう。

以下、目次

はじめに なぜ因果性なのか 第1章 問題(因果性のどこが難しいのか) 第2章 規則性(結びつきのない因果性はあるか) 第3章 時間と空間(原因は結果よりも前に起こるか) 第4章 必然性(原因はその結果を保証するか) 第5章 反事実条件的依存性(原因は違いを生じさせるか) 第6章 物理主義(すべては伝達に尽きるのか) 第7章 多元主義(異なる多くの因果性があるのか) 第8章 原初主義(因果性は最も基礎的か) 第9章 傾向性主義(何が傾向を持つのか) 第10章 原因を見つける(それはどこにあるのか) 一言だけのあとがき / 解説(谷川 卓) 日本の読者のための読書案内(谷川 卓・塩野直之) 読書案内 索引

「めぐり合わせ」~「デイヴィッド・ヒューム」
http://bookend.blog.so-net.ne.jp/2016-05-26


原因と結果の迷宮

原因と結果の迷宮

  • 作者: 一ノ瀬 正樹
  • 出版社/メーカー: 勁草書房
  • 発売日: 2001/09/01
  • メディア: 単行本



世界の複数性について

世界の複数性について

  • 作者: デイヴィッド・ルイス
  • 出版社/メーカー: 名古屋大学出版会
  • 発売日: 2016/08/22
  • メディア: 単行本



ヒューム読本

ヒューム読本

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 法政大学出版局
  • 発売日: 2011/06/01
  • メディア: 単行本




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『哲学がわかる 自由意志』 トーマス・ピンク著 岩波書店 [哲学]


哲学がわかる 自由意志 (A VERY SHORT INTRODUCTION)

哲学がわかる 自由意志 (A VERY SHORT INTRODUCTION)

  • 作者: トーマス・ピンク
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/12/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



著者は〈この本には三つの目的がある。つまり、現在論じられているように、自由意志の問題を紹介すること、どのようにしてこの問題が現代の形をとるようになったのかを説明すること、そして、今の形になったこの問題がどのように解決されるのかを提案することである〉と述べ、さらに〈たんなる入門書を目的としているのではなく、自由というテーマについて私自身の考えを述べることで貢献することを意図している(「はじめに」)〉と述べている。

DNA、遺伝情報によって我々の性質・傾向が決定されるという。そのような科学的解明が多々なされている今日、我々のする行為・決定は、そうした因果関係のうちにあり、事前に決定されているといえるのではないか、自由意志はないのではないかなど、自由意志をめぐる哲学の今日的課題がある。著者は、そうした自由意志をめぐるいくつかの課題を取り上げ、哲学の歴史に踏み入り、自由意志を擁護しようとする。巻末にある「解説」から引用すると以下のようになる。

〈 世界の出来事が前もって決定されているという考え、つまり決定論は、自由を(そして自由意志を)擁護する上での最大の脅威となる。しかし、決定論を否定することは難しいと考える哲学者は多い。特に、科学は出来事の因果関係を解明することをその重要な目的の一つにしている。科学は発達すればするほど、世界の出来事が因果関係によって説明されるようになる。そして、このような科学が世界の真のあり方を明らかにすると考える多くの哲学者は、しばしば決定論を認めつつ、自由という概念をそれに合う形で再定義しようとしてきた。そういった立場は、両立可能説と呼ばれる。 // この本で、著者は両立可能説として二つのものを主に取り上げて議論している。その一つは、私たちが自分の行為を理性によってコントロールすることが自由の表れであると考えるものであり、これは合理主義的両立可能説と呼ばれる。・・略・・もう一つは、自然主義的両立可能説と呼ばれるものである。これは、近代において特に脚光を浴びはじめることになった。そこには、自然科学の発展に伴う機械論的世界観の影響がある。 / 特にこのタイプの古典的両立可能説者と考えられているのが社会思想の分野で知られるトマス・ホッブズである。彼は、その唯物論的立場から、世界における変化はすべて物質間の因果関係において成立するのであり、人間もまたその例外ではないと考えた。このような立場をとるとき、世界に生じるすべてのことは因果関係の連鎖で結ばれていることになり、あらゆることが決定論的に生じると考えられる。しかし、ホッブズは、自由という概念まで放棄することはなかった。・・略・・〉。〈著者は、現代主流の両立可能説ではなく、むしろ伝統的な自由意志説の立場から自由を擁護しようとする。著者は、欲求によって引き起こされたものを(自発的)行為とするホッブズのような考えに対して、それとは異なる行為の概念を提示するのである(解説:戸田剛文氏による)〉。

以下、目次

第1章 自由意志の問題(自由意志の問題とは何か? / 自由と道徳性 / なぜ私たちは自由でないのかもしれないのか ・決定論の脅威、・偶然と理解不可能という脅威 / 両立可能説と懐疑主義 / 自由意志の問題とその歴史

第2章 自由意志としての自由(動物の不自由 / 自由と実践理性 / 自由と意志 / 中世における自由意志の伝統 / 意思決定と意図 / 目標や目的の道徳としての道徳)

第3章 理性(なぜ両立可能なのか? / 合理主義的両立可能論 / 自由と理性は同じなのか / 自由と非合理主義)

第4章 自然(トマス・ホッブズ / ホッブズと常識 / 自発性なしの自由)

第5章 自由ぬきの道徳?(責任と自己決定 / 自由と自発性 / 自由ぬきの道徳責任?)

第6章 「自由意志説の自由」への疑い(自己決定と自由意志説の自由 / ランダム・プロブレム / エクササイズ・プロブレム / ランダム・プロブレムとエクササイズ・プロブレムの比較)

第7章 自己決定と意志(エクササイズ・プロブレムを解決する / 自発性なしの行為 / 実践理性にもとづく行為のモデル)

第8章 自由と自然におけるその位置づけ(自由は因果的な能力か? / 両立可能説的自然主義と因果能力としての自由 / 自由意志説と因果能力としての自由 / 還元なき自由意志説の自由 / 自由意志説の自由の擁護)

解説 // 日本の読者のための読書案内 / 読書案内 / 索引


それは私がしたことなのか: 行為の哲学入門

それは私がしたことなのか: 行為の哲学入門

  • 作者: 古田徹也
  • 出版社/メーカー: 新曜社
  • 発売日: 2013/08/05
  • メディア: 単行本



哲学をはじめよう

哲学をはじめよう

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: ナカニシヤ出版
  • 発売日: 2014/04
  • メディア: 単行本




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『哲学がわかる 形而上学』スティーヴン・マンフォード著 岩波書店 [哲学]


哲学がわかる 形而上学 (A VERY SHORT INTRODUCTION)

哲学がわかる 形而上学 (A VERY SHORT INTRODUCTION)

  • 作者: スティーヴン・マンフォード
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/12/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



形而上学とは何か?と問われて、よく分かる仕方で答えるのは、むずかしい。そのむずかしいことを本書はほぼ成し遂げたと言っていいのではないか。(「ほぼ」とつけたのは、著者の力量に問題があるのではなく、評者の読解力ゆえに付加した言葉)。

本書では、入門書によくあるように、ずばり本題に入らない。形而上学とはこれこれをあつかう哲学だと解説を始めない。第10章(最終章)になってやっとタイトルに「形而上学とは何か」とでてくる。それは初学者が「形而上」の抽象的な雲をつかむような話に、辟易して逃げ出さないようにとの配慮にもとづくものだ。第1章から9章までで、読者は著者とともに形而上学を実践する。そのことで理解を得るよう助けられる。その課題は「机とはなにか」「円とはなにか」「全体は部分の総和にすぎないのか」「変化とはなにか」「原因とはなにか」「時間はどのように過ぎ去るのか」「人とはなにか」「可能性とはなにか」「無は存在するのか」というものだ。問いかけ同様、解説もやはり「雲をつかむ」ような話しではあるのだが、なんとか論議についていける。そして、「ははあ、こういうものをいうのか」と形而上学を“実感”できる。雲は雲なりにつかむことは可能だという思いを致す。そして、さんざん課題をああだこうだやったあと、最終章で「形而上学とはなにか」を教えられる。順番が逆だが、実感・体験してから教示されるとハラに入る。著者は、初学者の興味や落とし穴を知ったうえで導いてくれる。タトエも多く用いられる。ビリヤードの仲間のスヌーカー(の球)が引き合いに出されたりもする。ありがたいことである。

翻訳者のひとり秋葉 剛史氏による『解説」には、〈本書で紹介されているのは、主として20世紀以降の英語圏の哲学で行われてきた形而上学の議論ーー「現代形而上学」ないし「分析形而上学」と呼ばれるーーである〉とあり、第1章から章ごとの要約、そして本書の全体的な特徴を記した後、〈以上を総合するに、本書は現代形而上学への最初の一冊として、あるいはその全体像を比較的手軽に把握するための書として、幅広い層の読者にお勧めである〉とある。


形而上学
ウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BD%A2%E8%80%8C%E4%B8%8A%E5%AD%A6


形而上学〈上〉 (岩波文庫)

形而上学〈上〉 (岩波文庫)

  • 作者: アリストテレス
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1959/12/05
  • メディア: 文庫



現代存在論講義I—ファンダメンタルズ

現代存在論講義I—ファンダメンタルズ

  • 作者: 倉田剛
  • 出版社/メーカー: 新曜社
  • 発売日: 2017/04/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


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『ロボットからの倫理学入門』久木田水生・神埼宣次・佐々木拓著 名古屋大学出版会 [哲学]


ロボットからの倫理学入門

ロボットからの倫理学入門

  • 作者: 久木田 水生
  • 出版社/メーカー: 名古屋大学出版会
  • 発売日: 2017/02/28
  • メディア: 単行本



たいへん分かりやすい倫理学の本。倫理学に初めて触れる読者を対象にしている。無理なく論議についていけるよう配慮がなされている。「SF小説の古典中の古典であ」るアシモフの『わたしはロボット』およびその後に書かれたシリーズを「ロボット倫理学に関する必読文献」とし、「アシモフのロボット工学三原則」から第1章は始まる。複雑に入り組んだ論議になる場合は、その点を指摘して論議を簡略化するなど、初学者にとっては、たいへん有り難い。(以下、『はじめに』部分から、引用)。

〈倫理学の最も顕著な特徴は、それが「地球は丸い」というような「事実」を扱うのではなく、「道徳的な良さ」といったような「価値」を中心的なテーマとして扱うことです。〉

〈本書のねらいは二つあります。ひとつは倫理学に初めて触れる読者を対象に、ロボットを通じて人間の倫理・道徳について考えてもらうことです。もうひとつは、ロボットや人工知能(AI)に携わる人びと(研究者、メーカー、ユーザーなど)が、関連する倫理的問題について考え議論するための土台を提供することです。〉

〈今日、自律的に活動するロボットや人工知能が社会のさまざまな領域で活躍するようになりました。しかし、それに伴い、それらが私たちに何らかの危害を加えるかもしれないという危惧が高まっています。そのため人工知能研究者・ロボット工学者の中には、「“道徳的に”考え振る舞う機械」を開発しようとしている人たちがいます。この試みはロボットや人工知能を開発する人びとにとって実用的な重要性を持つと同時に、哲学・倫理学の研究者にとっても興味深いものです。というのもそれは、「道徳性とは何か」という問いに取り組むための新しいアプローチを提供するからです。〉

〈本書の第Ⅰ部では、・・略・・「道徳性を持つロボットを作るにはどうしたらよいか」を考えることで「道徳性」の本質にアプローチします。・・略・・このアプローチによって、より具体的には「道徳的なロボットとはどういうものか」、「道徳的原理を機械に実装するにはどうすればよいか」、「機械は責任の主体になることができるか」、「ロボットは道徳的な配慮の対象になりうるか」といった問題が扱われ、そこから「道徳的行為者性」、「道徳的原理」、「責任」、「道徳的機械行為者性」などの概念が検討されます。〉

〈第Ⅱ部ではより具体的な問題、すなわちロボットや人工知能に関して生じる(生じうる)倫理的な問題を扱います。・・身の回りの機械によって収集された個人情報とプライバシーをどう扱うべきか、ケア・ロボットやコンパニオン・ロボットなどがコミュニケーションのあり方や人間関係にどのような影響を与えるのか、自律的ロボット兵器や遠隔操作兵器は通常兵器と比べて倫理的問題を含んでいるのか、ロボットが人間の仕事を奪う時にどのような社会システムが望ましいのかなど、緊急に考えなければならないさまざまな倫理的問題・・略・・を取り上げて論じます。〉

〈倫理学の扱う問題は幅広く、また人間や社会の最も根源的な問題でもあります。本書で扱うのはそのほんの一端に過ぎません。それでも皆さんが倫理学に興味を持つきっかけを本書が提供できれば嬉しく思います。〉


わたしはロボット (創元SF文庫)

わたしはロボット (創元SF文庫)

  • 作者: アイザック・アシモフ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1976/04/23
  • メディア: 文庫



倫理学の話

倫理学の話

  • 作者: 品川 哲彦
  • 出版社/メーカー: ナカニシヤ出版
  • 発売日: 2015/11/01
  • メディア: 単行本



動物からの倫理学入門

動物からの倫理学入門

  • 作者: 伊勢田 哲治
  • 出版社/メーカー: 名古屋大学出版会
  • 発売日: 2008/11/20
  • メディア: 単行本




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