So-net無料ブログ作成
  • ブログをはじめる
  • ログイン
日本語・国語学 ブログトップ
前の10件 | -

『ことばと遊び、言葉を学ぶ』 柳瀬尚紀著 河出書房新社 [日本語・国語学]


ことばと遊び、言葉を学ぶ: 日本語・英語・中学校特別授業

ことばと遊び、言葉を学ぶ: 日本語・英語・中学校特別授業

  • 作者: 柳瀬尚紀
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2018/04/23
  • メディア: 単行本



「日本語・英語・中学校特別授業」の副題がついている。子どもたち相手に語ったことが記されている。柳瀬さんの話しぶりが復元されて、懐かしい感じがする。内容としては、タイトルどおり、「ことばと遊び、言葉を学ぶ」ことが示されていく。

「ことばと遊び、言葉を学ぶ」とは、言い換えるなら、言葉にまみれることであり、凝りに凝ることと言っていいだろう。柳瀬さんが、翻訳家としてことばにまみれ・言葉に懲りだした縁起については、次のようにある。「ルイス・キャロルの翻訳を行うようになってからは、原典の英語で使われている修辞の多様さ、これだけ面白いのだから、それと等価であるような訳文を作りたい、という気持ちが生まれたのです(p205)」、と。そうか、それがジョイスに繋がって行くのか、と納得する。

訳語として応答する日本語については、次のように語られる。「日本語は、ひらがな・カタカナ・漢字・ローマ字・ルビなど、さまざまな表現方法を備えています。それに、多量の意味を持ち、表現の幅を大きく広げてくれる同音異義語・同訓異字なども多くあります。そのような日本語に触れてきた経験から、私は、翻訳というものについて、翻訳者の個性というよりは、翻訳の言葉が日本語のほうから降ってきてくれるものだと考えるようになりました。翻訳をするときには、私は、日本語を通訳しているだけなのです。(p211)」。

まるで、預言者が天からくる神の言葉を待っているかの例えである。ジョイスの著作『フィネガンズ・ウェイク』の翻訳を成し遂げるというカミ業が可能となったのは、柳瀬さんの日本語への信頼が土台にある。そして、その土台を支えたのが辞書への執着である。そのようにして、天からのインスピレーションに応答する言葉が備えあったことがカミ技の理由であろう。

本書には、氏の辞書との付き合いぶりが、示されてもいる。オックスフォード・イングリッシュ・ディクショナリー(OED)、『諸橋大漢和辞典』、『熟語本位 英和中辞典』、『新明解国語辞典』の話など、その利用の仕方もふくめて語られる。「ことばと遊び、言葉を学ぶ」ことへ招待する本としてお勧めである。


辞書はジョイスフル (新潮文庫)

辞書はジョイスフル (新潮文庫)

  • 作者: 柳瀬 尚紀
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1996/06
  • メディア: 文庫



フィネガンズ・ウェイク 1 (河出文庫)

フィネガンズ・ウェイク 1 (河出文庫)

  • 作者: ジェイムズ・ジョイス
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2004/01/07
  • メディア: 文庫



nice!(1) 
共通テーマ:

『微妙におかしな日本語: ことばの結びつきの正解・不正解』 神永 曉著  草思社 [日本語・国語学]


微妙におかしな日本語: ことばの結びつきの正解・不正解

微妙におかしな日本語: ことばの結びつきの正解・不正解

  • 作者: 神永 曉
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 2018/02/16
  • メディア: 単行本



日本語慣用表現の“正”用法を、歴史の中で位置づけようとする本。国語の専門家による“断定的な見解”が示されていない点が特徴といえる。そもそも、そういう傾向の書籍をみて、どんなものかと思ったのが執筆の動機であるという。だから、白黒ハッキリつけないところが本書の持ち味で(とは言っても、結果として、これは使わない方がよい、など記されているのではあるが・・)、その微妙なところの理解を得られるのが、面白いところである。

取りあげられている慣用表現をみていくと、“その説明はできないものの”、正用法の識別がほとんどすべてと言っていいほどできた。ある意味かんたんでもあった。しかし、そこを説明できてはじめてその言葉を知っているということになるのであろう。つまり、本当は知っていないのだと知らされたというわけである。また今日、本書のような書籍が出版されるということは、知らず知らずヘンな表現、もの言いをしている人が大勢いるということを示すものでもあるのだろう。

同様の本であるが、短いコメントのなかにもナルホドの思いをし、また、これは正さねばと多々刺激を受け(啓発され)た本に、東京堂書籍の『勘違い慣用表現の辞典(西谷 裕子著)』がある。本書を、おもしろいと思う方は、ぜひソチラも見て欲しいところ。



勘違い慣用表現の辞典

勘違い慣用表現の辞典

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東京堂出版
  • 発売日: 2016/02/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



nice!(0) 
共通テーマ:

『迷わず書ける記者式文章術』 松林 薫著 慶應義塾大学出版会 [日本語・国語学]


迷わず書ける記者式文章術:プロが実践する4つのパターン

迷わず書ける記者式文章術:プロが実践する4つのパターン

  • 作者: 松林 薫
  • 出版社/メーカー: 慶應義塾大学出版会
  • 発売日: 2018/02/15
  • メディア: 単行本



新聞業界に入社した新人は、配属先での仕事の合い間に先輩からマン・ツー・マンの指導を受ける。そして、〈半年から1年ほどで「商品になる文章」を〉書けるようになる、という。本書は、これまで業界内に「囲いこまれて」きた書き方の技術・ノウハウを一般に公開したもの。

副題にある「4つのパターン」とは、新聞記事の構成に関して用いられる〈ニュースは「逆三角形」、論説は「三部構成」、コラムは「起承転結」、長めの企画記事は「起承展転結」〉という型のこと。それらは、いわば標準化された既成の部品で、それらの組み合わせで新聞記事全体はできている。〈記者は原稿を書く際に、作家のようにどんな表現をするかで悩む必要はありません。あらかじめ決まったラインナップの中から「選ぶ」だけなのです。(p22)〉その書き方のルールさえ知ることができれば、「誰でも簡単にマネができ」、〈レポートや報告書からエッセイまで幅広い文章〉に応用できる。

本書には、「4つのパターン」だけでなく、経験の裏打ちのある多くの情報がでている。本書自体が記者式文章術の有用性を示すものとなっている。たいへん読みやすく、実践的でもある。

同じく新刊ということで、(下のイメージ書籍)『あなたの文章が劇的に変わる5つの方法』(三笠書房)も手にし、目次、中身をちらちら見たが、そのまま棚に戻した。あまり魅力を感じなかった。が、本書は、いわば首っ引きで読んだ。同じ学ぶのであれば、こちらから得られるものの方が大きいように思う。


あなたの文章が劇的に変わる5つの方法 (単行本)

あなたの文章が劇的に変わる5つの方法 (単行本)

  • 作者: 尾藤 克之
  • 出版社/メーカー: 三笠書房
  • 発売日: 2018/01/13
  • メディア: 単行本




**********

(以下、『迷わず書ける記者式文章術』からの引用)

〈新聞記者にとって本当に大変で時間がかかるのは、「埋もれている情報を発掘して裏をとる」という技術の習得であって、「文章を書く」ことではないのです。(p5「まえがき」)

〈日常会話では、こうした「当たり前」のことはいちいち確認しません。問い返さず「察する」のが常識的な態度だからです。しかし、記者はここで察してはいけないのです。相手にバカだと思われても、こうした点を一つ一つ、潰していかなければなりません。それが「裏をとる」ということなのです。・・略・・そうした体験を通じて、「馬鹿になる」ことの大切さを知ります。 / 一般の人は自分が信じている情報を疑うことはほとんどありません。「そこは常識や想像力で捕らよ」という無言の圧力に負けて、あいまいな情報の確認を怠りがちです。しかし、あえて疑って調べてみると、自分が何も知らないことに気づくことはよくあるのです。この「無知の自覚」を持っているかどうかが、記者とアマチュアの最大の違い「無知の自覚」を持っているかどうかが、記者とアマチュアの最大の違いといっていいかもしれません。(p51「取材の方法」)〉

〈私が新聞記者になって最初に配属されたのは、ニュース部門ではなく、週刊誌のように1週間、1ヶ月単位で記事を書く解説部門でした。しかし指導にあたった先輩からは、原稿を書くときは、「この分量なら何分で書け」といった制限を設けられました。文章を書く技術を早く習得したければ、こうした(締め切りの)習慣を身につけたおいた方がいいでしょう。(p65「設計図を描く」)〉

〈私も記者時代、これから書く原稿についての説明が要領を得ないと、先輩やデスクに「要するに何が書きたいんだ。一言で言ってみろ!」と怒られたものです。このときの「一言で言った答え」が見出しになるわけです。 / もっとも、読者が紙面やネットで目にする見出しは、記者が執筆前に考えたものではありません。[原稿を書くための見出し]と、[読者に読ませる見出し]は違う
のです。前者を「仮見出し」と呼び、完成版の記事につける見出しと区別します。この点については後述します 。(p70「設計図を描く」)〉

〈例えば、社会問題について論じ、政府の責任を指摘した後に、「とはいえ、国も問題に気づいていないわけではない」などと、政府が不十分ながらも対策に乗り出している事実を紹介する段落を入れたりします。一方的な主張にならないよう、全体のバランスを取るわけです。記者はこれを「抑え」と呼んでいます。中立性や公平性が求められる文章では、こうしたパートが重要になります。(p84「設計図を描く」)〉

〈実は、長い文章が書けない人は、この(5W1Hの)順位づけの作業をおろそかにしているケースが大半です。こうした価値判断は執筆作業に入る前に済ませておくべきであり、そうでなければ書き始めてから迷うことになります。設計の段階で、この作業を終えていることが前提になります。(p105「設計図を描く」)〉

〈ただし、こうしたフレーズは、記者の間では「ナリチュウ(成り注)」と呼ばれ、避けるべき表現とされています。かつてどんな記事でも「成り行きが注目される」で締めていた時代があったことの名残です。この手の紋切り型表現を使うと、文章の雰囲気が凡庸になります。何も言っていないに等しいので、論点も拡散してしまいがちです(p115「文を書く」)〉。

〈(読み手に頭を使わせないとは) 急いで付け加えれば、これは「読者に深く考えさせない」という意味ではありません。その逆で、構文や筆者の意図を読み解くことに力を割かなくてよければ、テーマ自体について深く考えてもらうことができるのです。(p118「読みやすい文章とは」)〉

〈新米の新聞記者は、「さらに」「したがって」といった接続詞を使わずに文章を書くよう練習します。 / 単純に「文章を短くできる」というメリットもありますが、より重要な理由は接続詞を使わずに書くと、文章の流れを意識するようになるからです。接続詞なしでも違和感なく読める文章は、論理展開が自然で、読み手にとっても流れがスムーズに感じられるのです。 / 裏返せば、接続詞を削ると文の流れが不自然になる文章は、関連性の低い文や段落を無理やり結びつけている可能性があります。(p150「推敲する」)〉


新聞の正しい読み方:情報のプロはこう読んでいる!

新聞の正しい読み方:情報のプロはこう読んでいる!

  • 作者: 松林 薫
  • 出版社/メーカー: エヌティティ出版
  • 発売日: 2016/03/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



「ポスト真実」時代のネットニュースの読み方

「ポスト真実」時代のネットニュースの読み方

  • 作者: 松林薫
  • 出版社/メーカー: 晶文社
  • 発売日: 2017/03/11
  • メディア: 単行本



nice!(0) 
共通テーマ:

目次 『迷わず書ける記者式文章術』 松林 薫著 慶應義塾大学出版会 [日本語・国語学]


迷わず書ける記者式文章術:プロが実践する4つのパターン

迷わず書ける記者式文章術:プロが実践する4つのパターン

  • 作者: 松林 薫
  • 出版社/メーカー: 慶應義塾大学出版会
  • 発売日: 2018/02/15
  • メディア: 単行本



まえがき

第1章 文章を書くとはどんな作業か
大事なのは「何を書くか」
「文章が書けない」理由(①書くべきことがない②構成ができない)
なぜ記者は過酷な条件で書けるのか
モジュール・段落・文
新聞スタイルは応用範囲が広い
速く書くための基本戦略(①書くべき内容を明確にし②適切な構成のパターンを選び適用)

第2章 構想を練る
文章の種類を決める
テーマを決める(ニュース価値①関心の高さ②新奇性③社会的影響)
読ませどころの設定(①新たな知識②予想・常識を転覆③別々の要素が繋がる)
発想法の3パターン(①逆張りの②掛け算の③逆算の)発想法
ブレーンストーミング
 
第3章 取材の方法 
メモのとり方
裏をとる
資料で確認する
現場、現物、現人にあたる
インタビューの方法(質問はフローチャートで用意する)
掘り下げて聞く

第4章 設計図を描く
設計図を作る
仕様を確認する(①読者②目的③分量4締め切り)
文体を決める
スケルトンの基本項目(①仮見出し②要約、要旨③本文の構成)
仮見出しを立てる(15~25字)
見出しの表現方法
要旨をまとめる(150~200字)
4つの基本パターン
説明は逆三角形
レポートは三部構成
読み物は「起承転結」
長めの読み物は「起承展転結」
モジュールの中の構成
段落の役割(①リード②事実③分析④主張)
「本論」「展」は3パターン(並列・因果・入れ子)型
「起」の書き方(推理小説・ルポ・チラ見せ)型

第5章 文を書く
まず、ざっと書いてみる
読みやすい文を書く三原則
「40-60」の原則
「1文1意」の原則
受け身形を使わない
リードを書く
段落の中の「文」の並べ方(①時系列②因果関係③降順)
補足文の入れ方
客観性のある表現をする
とりあえず文章を締めるための表現

第6章 読みやすい文章とは
読み手に頭を使わせない(頭を使う①覚える②思い出す③予測する④イメージする)
読みにくい原因(①構文複雑②論理展開に無理③説明不足)
漢字の割合は3分の1程度
漢字を減らす方法(①漢字2字動詞を②形式語を)変更
親しみのある言葉を選ぶ
語順を入れ替えるコツ(①対応語は近くに②whoは前に)
単調さを防ぐことも必要(①文の場合②段落の場合)
分割のコツ(①読点②「が」③「ので」)
体言止めは最小限に

第7章 推敲する
読み上げれば難点がわかる
不要な言葉を削る(①ダブり表現②自明の主語修飾語③接続詞)
読点の打ち方(①文頭接続詞②漢字かな連続)
語句の説明書き(①枕詞②カッコ書き③とはもの)

第8章 説得力を高める
写真をつける
イメージ図を描く
データで伝えるのは「大きさ」と「変化」
グラフをつける
表をつける
具体例やたとえ話を入れる
描写は「絵に描ける」ように

第9章 トレーニング編
説明力は「お絵かきゲーム」で
記者会見を速報記事にする
積極的に添削を受ける
文章構成の練習法

第10章 本質を突く文章術
「わかりやすさ」と偏向は紙一重
イメージに訴える
「本質を突く」方法

あとがき / 文章修行のための読書案内 / 参考文献 / 付録


新聞の正しい読み方:情報のプロはこう読んでいる!

新聞の正しい読み方:情報のプロはこう読んでいる!

  • 作者: 松林 薫
  • 出版社/メーカー: エヌティティ出版
  • 発売日: 2016/03/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


続きを読む


nice!(1) 
共通テーマ:

『ことばはフラフラ変わる』 黒田 龍之助著 白水社 [日本語・国語学]


ことばはフラフラ変わる

ことばはフラフラ変わる

  • 作者: 黒田 龍之助
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2018/01/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



2011年発行の『ことばは変わる』に加筆訂正し、「コーヒーブレイク」なる短いエッセイを入れ、組み替え、改題した新版。文章は、タテ書きとなって読みやすい。その内容はというと・・・

病気の先生のピンチヒッターとして、著者は「比較言語学」の講義を依頼される。しかし、「比較言語学」はタイヘンだ。多くの言語の知識が必要である。ギリシャ、ラテンに加えてサンスクリット語の知識も要求される。さらにゴート語に古代スラブ語も・・・。「そんな人、日本に何人いるのか。わたしはほとんどダメだ」と言いながら、著者は引き受ける。興味があるからだ。「そうか、単なる比較言語学というより、『複数言語学』というつもりで、複数の言語を対象とするときの考え方を紹介する授業にしたらどうだろうか。そうすれば、ヨーロッパ言語至上主義に陥る危険も、多少は回避できるかもしれない」と考えた著者は、伝統的な比較言語学の全体を一通り調べ、加えて歴史言語学、つまり言語を通時的に観点から概観し、部分的にその方法論も紹介し、表面的なことを全体的に語り、アジアの言語が専門の人にも有益な授業を目指すことにする。そして、共通のテーマは「言語の変化」とし、言語の変化はどうして、どのように変化するのか、それを比較言語学、歴史言語学だけでなく、さまざまな角度からアプローチする・・・。そのようにして、取り扱った講義とその中で学生に与えた課題とその応答が本書に示されている。

ことばがフラフラ変わることが漸次しめされていく中、著者もたいへんな重荷を背負っただけに、あちらこちらフラフラと話しを進める。「なんだか話しがずれてきた。要するに、言語は人間とは違うということをいいたいわけである。当たり前なのだが。」などとある。だが、そのズレが面白かったりする。たとえば、「わたしは人文科学が過去を見つめる学問だと考えている。現在を見つめる社会科学や、未来を見つめる自然科学に比べると、人文科学はなんとなく地味だなあと感じることがある。だが過去をきちんと整理しないで、やみくもに未来へ進むことがはたしていいことなのか。・・・」という論議もあれば、「振り返ってみれば、大学院で勉強したことのうち、主要なものの一つに研究史があった。どういう研究者が何を研究し、どのような業績を残したか。そういう人がどのような本や論文を書いて、そのうちどれが現在でも価値を失っておらず、さらには目を通すべきなのか。そういうことが、とても重要だった。人文系の大学院とは、こういうことを学ぶ場である。ところが外国語の場合、大学院で運用能力を伸ばそうと考えて進学する者がときどきいる。愚かである。」などという論議もある。本筋も面白いが、著者の人柄からでてくるユーモアと本筋からさまよい出たフラフラした論議が本書の魅力でもある。

ちなみに著者の講義はたいへん人気があったようだ。専門科目なのに受講生がふつうの10倍も集まり、「もしかして専門的でない、レベルの低い講義なのではないかという声が上がったようで、そのまま廃止となった。」という。おかげで、ほどよく専門的でポピュラーな講義を読むことができるのは結構なことである。実際のところ著者のいうように「言語に興味があるのは、専門家ばかりではないのだから」。


著者自身「本書を読了したからといって、比較言語学が分かったつもりになるのは非常に危険であることを、あらかじめ申し上げておきたい」といい、「さらに詳しく知りたい方」にお薦めする参考文献として(第1章末尾で)以下の本を紹介している。「このような良書の多くが絶版であるのに対して、入手可能な本にかぎってロクなものがなかったりするのが残念だ」と付言されている。「これまでの研究を完全に無視して荒唐無稽な論理を力ずくで押し付ける」「トンデモ本」が書店にいくらでも並んでいるそうなので、要注意ということでもある。(その説明は、本書2章でなされている)。


歴史言語学序説 (1967年)


言語学の誕生―比較言語学小史 (岩波新書)


比較言語学入門 (岩波文庫)


比較言語学を学ぶ人のために


入門ことばの科学



共通テーマ:

『 教師の文章 』 宇佐美 寛著 さくら社 [日本語・国語学]


教師の文章

教師の文章

  • 作者: 宇佐美 寛
  • 出版社/メーカー: さくら社
  • 発売日: 2017/11/09
  • メディア: 単行本



たいへん激しい文章・内容に驚く。主たる内容は、文章作法である。論議を展開するに際し、著者は、早大教授(女性)の雑誌掲載論文を取りあげる。その論調は、槍玉にあげるといったほうがいいものだ。しかし、批判・非難するだけではない。後の章で、著者は、同じ人物の文章の冗長さを指摘しつつも、ジャンヌ・ダルクのごとく「思い切って威張って書け。」、「神のお告げだけを書け。」、「教え授ける内容だけ書けばいい」と叱咤激励する。イメージとして湧いてくるのは、引退した日馬富士の現役時代のもっとも力づよい頃、左おっつけ右のど輪で相手を押し込んでいく姿だ。

槍玉にあげられている教師たちが「批正」される様子を読む時に、自分のカラダが反応しているのを感じる。なぜなら、それらの教師と同様の文章を自分も書いているからだ。著者は「・・・と思う。」「・・・と思われる。」といった「心理文を排す」べきことを教示する。「文章の全体は、その筆者が思ったことである。頭が働いて 『思う』 ということがなければ、文章が書けるはずがないのである。」。そのとおりである。ぐうの音も出ない。

著者は、第5章で〈「作文課題論」論の誤り〉を指摘する。そこで、教育の場で文章上達に「必要な状態」の無いことを憂いつつ次のように書く。「学習者が夢中になり、熱くなって書くという状態がないことである。『書かずばやまじ』という状態が無い。他のことなど考えたくもない集中状態がない。 / 教育において、最も必要な状態は、この学習者自身が本気の意欲で熱中しているということである。」と書く。そして、宮本武蔵の『五輪書』から引用して(引用省略)、「相手を切り殺そうと思う一心で戦えばいいのである。切り殺すために必要な技術の関連は、みな自然に学習されてしまう。(略)。その道に学習すべき諸技術の方をとり立てて特に注目し意識すると、何よりも必要な‘ 勢 ’が無くなる。失速し墜落する。多くの脚の動きを一々意識したので動けなくなったムカデのようなものである。」と、書く。

ほかに「段落」、「トピックセンテンス」・「柱の文」に関する論議など興味深く読んだ。警策を受けるつもりで、紐解くのは良い。

(以下、目次)



第1章 「アクティブ・ラーニング」騒動 (なぜ「対話的」がいいのか?)
第2章 自と他
第3章 心理文を排す
第4章 ジャンヌ・ダルク (なめられるな、威張れ)
第5章 「作文課題」論の誤り (「明確な作文状況」は看板だけ)
第6章 自己・状況・論争
第7章 作文指導の要件 (事実の情報、指示の情報)
第8章 文は必要、段落は不要
第9章 〈トピック・センテンス〉〈柱の文〉は迷信である
第10章小学校では、英語ではなく、日本語を
第11章仕事をするための作文

著者紹介・著者目録・現住所


作文の論理―『わかる文章』の仕組み

作文の論理―『わかる文章』の仕組み

  • 作者: 宇佐美 寛
  • 出版社/メーカー: 東信堂
  • 発売日: 1998/11/01
  • メディア: 単行本



日本語力と英語力 (中公新書ラクレ)

日本語力と英語力 (中公新書ラクレ)

  • 作者: 齋藤 孝
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2004/04/10
  • メディア: 新書




共通テーマ:

『日本の英語、英文学』 外山 滋比古著 研究社 [日本語・国語学]


日本の英語、英文学

日本の英語、英文学

  • 作者: 外山 滋比古
  • 出版社/メーカー: 研究社
  • 発売日: 2017/10/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



「教養英語」より「実用英語」が重視され、大学から「英文科」が消えているという。ながらく英語教育に携わってきた著者は、英語・英文学の危機に立ち上がる。執筆の動機を次のように記す。「何としても、英語、英文学の伝統を消したくないが、できることは限られている。個人としてできることは、これまでの百年に、英語、英文学がなしとげたことをふり返ってみることであると考えるようになって、この本を書くことにした。(〈あとがきにかえて〉新生へ向けての回想)」

そして、さらに昨今「広く知的文化をおびやかすもの」となっている人工知能という強敵にも立ち向かう。「新しい英語、英文学は、案外、人工知能に対してつよいかもしれないということを証明すれば、語学は新しい時代の先頭に立つことができる」「新しい、おもしろい、創造的思考力を育むには、やはり、外国語の学習が、大きな力をもつのではないか。こういうことを本気で考えている。(〈あとがきにかえて〉新生へ向けての回想)」

当該書籍のなかで、著者は、外国語学習が「人工知能に対してつよい」ことを証明してみせた(と言っていいように思う)。また、英文科のないイギリスに渡って先進的な「文学論」を記した夏目漱石をはじめ、英語・英文学教育の歴史のなかで記憶に留めるべき名をおおく示している。南日恒太郎、小野圭次郎、山崎貞、I・A・リチャーズ、ウィリアム・エンプソン、福原麟太郎、山路太郎、岩崎宗治、ラフカディオ・ハーン、エドマンド・ブランデン、岡倉由三郎、岩崎民平、木原研三、石橋幸太郎、大塚高信、安井稔、荒木一雄、冨原芳明といった名である。さらに、その中には、「百年の歴史を誇り、日本でもっとも創刊の早かった雑誌の三つのうちの一つと言われた『英語青年』」の編集を担った著者の名:外山滋比古も含めることができるにちがいない。

(以下、引用)

*************

実用英語が教養英語を攻撃するとき、まず英文法が槍玉に上がったこともあって、日本の文法は力を失った。しかし、それとともに、英語好きも減ったことに気づく人はすくなかった。



実用英語によって、文法教育の影がうすくなるとともに、英語に対する知的興味も下がったことは重大である。学校文法は間接的ながら、日本人の思考力を支えるものであったからである。この文法のもつ思考への影響力については、ドイツ語のほうが英語を上回っていた。ドイツ語を専攻した人たちは、一生、その名残をとどめることが多かった。

いずれにしても、学校文法は、それが学んだ人間の思考力を色濃く染めるということを、外国語教育にかかわるものは考えなくてはならない。

イギリスから伝えられた英文法はたいへんよく出来ていた。イギリスが植民地をひらき、そこをみな英語圏にしてしまったのは目ざましいことであったが、原動力のひとつに“英文法”があったことを認める人はすくない。
p50.51「文法」

*******

英文解釈法は、ただ、英語の参考書であっただけでなく、日本人の思考形成に深い影響を及ぼしている。そのことを知らない人がすくなくない。

「・・のみならず、・・もまた」「あまりにも・・で、・・ない」「・・にはあまりにも・・である」などという日常の言い回しは、英文解釈が教えたものである。その影響は思いのほか大きい。

p60「英文解釈」

*********

NI(Natural Intelligence「自然知能」の略、AI Artificial Intelligence「人工知能」に対する語)、自然知能を考えれば、外国語学習はまったく新しい可能性をおびることができるようになる。NIの不備を補完することである。頭のはたらきをよくする、ことばの学習である。

外国語によるNIの強化、伸長ということを中心に考えれば、会話ができる、手紙が書ける外国語力など問題にならない。母国語だけでは伸ばすことのできない能力を掘りおこし、知能を新しく伸ばす語学は、人間を変えることができる。

まず“解釈力”である。外国語を学ぶことで、解釈力が養われる。母国語では、わからないことがすくない。疑問をいだくことがすくない。解釈を必要とすることも、外国語に比べてはるかにすくない。

外国語を学ぶことで、解釈力は大きく伸びる。

解釈は複数の意味をもっていることに基づいている。意味はひとつ、という考えの母国語では深い思考活動が困難であるのは、すでに明らかになりつつある。

外国語教育における第一の問題は、この解釈力である。これをNIのなかへ入れている人と、そうでない人との頭のはたらきがまるで違うようである。

解釈力についで、外国語の習得によって得られるのが、“思考力”である。母国語は記憶力中心であるのに対して、解釈を要する外国語は思考によるところが多く、思考力を高める。

まったく外国語を知らない人は、思考に弱いことが多い。即物的思考はともかく、想像的思考は外国語によって強化されることが多い、と想像される。

思考力は数学などによって養われるというのは誤解である。案外、外国語能力によってすばらしい思考力がつく。

(2段落・省略)

そう言えば、寺田寅彦は生涯、つぎつぎいろいろな外国語を勉強していたことが知られている。もちろん実用が目的ではない。外国語の文法を学ぶことで思考力を磨いていたらしい。

つまり、外国語学習は母国語だけのNIの欠点を補うことができる、ということであり、知的活動の原動力になることができる。役に立たないどころか、たいへん有用であることがわかる。

外国語を学べば、もって生まれた(natural)言語能力を高めるだけではない。生まれつきの知能を伸ばすことができる。それとともに思考力全体が高められ、頭がよくなるのである。語学は“役に立つ”のである。

p141-144「知識・思考・創造」

************

「ε-δは苦にならなかった。トゥキュディデスの複文をほぐす作業に比べればおちゃのこさいさいだったのだ」
http://kankyodou.blog.so-net.ne.jp/2015-10-30-1


自分の頭で考える (中公文庫)

自分の頭で考える (中公文庫)

  • 作者: 外山 滋比古
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2013/02/23
  • メディア: 文庫




共通テーマ:

『三省堂国語辞典のひみつ: 辞書を編む現場から 』 飯間 浩明著 新潮文庫 [日本語・国語学]


三省堂国語辞典のひみつ: 辞書を編む現場から (新潮文庫)

三省堂国語辞典のひみつ: 辞書を編む現場から (新潮文庫)

  • 作者: 飯間 浩明
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/01/28
  • メディア: 文庫



『三省堂国語辞典(略して「三国」)』の編集の現場にいる飯間 浩明氏が、『三国』の編集方針や使い方について教示する本。国語辞典は、自社・他社ともに多く発行されているが、そのチガイを示す本。そして、『三国』を(できれば第一に)利用するよう勧める本。

『三国』の編集方針「基本姿勢は、あくまでも、現代語(の全体)を鏡のように映し出す辞書を作ること(p39、97)」。「およそ現代語なら、どんな材料でも等しく採集対象(p40)」とし、その「材料」には、「落語や時代劇のことば」、「新聞の短歌・俳句欄の古風なことば」、「インターネット掲示板やツイッターで交わされる俗語、珍語、よく分からないことば」など現に流通している言葉、そして「これから現代日本語として定着するかもしれないことば」が入るという。そのような方針で採集された中には、大型辞典にも掲載のない場合もあり、《新聞・出版界など辞書をよく利用する人たちの間には、「『広辞苑』にない言葉は『三国』を引けばある」という話が冗談まじりに交わされている(「『広辞苑』は信頼できるか」講談社 p203)》そうである。

当初、『三国のひみつ』を読んでいて、つらく感じた。その説明が自分の感覚と合わないのである。「現代語の(全体)を映し出す」鏡の前に立って、自分の古さを痛感させられたようだ。たとえば、「号泣」の説明を読んで、それはないだろうと思った。そこには、「号泣」②の例文として「静かに号泣する」が挙げられていた(p70)。「号泣」は、本来、声をあげて泣くもののはずである。しかし、その語釈の表記に〔俗〕とあるのをよく理解していなかったことが「それはないだろう」の理由であることが後に分かった。『俗語と話しことばのチガイ(p264~)』のところで、〔俗〕の意味が、「公式の場では使いにくく、テレビのニュースではなおさら使いにくいことば」「また、まともな生活を送っている人はふつう口にしない、卑語や隠語の類いも〔俗〕に入ります」と記されてあった。そして、再び先の説明に戻って(「号泣」②を〔俗語〕として取り上げた理由)、「誤用と言うにはあまりにも広まった用法であり、非公式の場でならば、ごくふつうに使われることばだと考えるに至ったからです。/ 第6版の時点から第7版の時点のわずか数年で、『号泣』の②の勢力はそれほどにも強くなっていたのです」を読んで納得した。要するに「号泣」②の用法は、社会的に是とされているわけでも、編集サイドで容認しているのでもなく、あくまでも、「現代」における一勢力として広まっていることを示したに過ぎないということが分かったのである。「号泣」②は、そのような中のほんの一例にすぎないのであろう。『三国』を見ると、そのような事例を多く見出すことができるのだろう。それは、いわば現代語の勢力地図を示すものであり、把握するものともなるのだろう。古い人間にとっては、「現代」における新たな勢力に遭遇する、覚悟を決めるうえでの助けとなるにちがいない。

三省堂の国語辞書というと、『大辞林』『新明解』を思い浮かべ、書店で『三国』を見ると、その存在意義を疑問に思ったりもしたものだが、本書を読んで、了解した。見直したと言っていい。その語釈の説明に《「にやり」の新明解、「すとん」の三国》とあるが、たいへんコンパクトな辞書に、「現代」が「すとん」と詰め込まれているのが『三国』であることも分かった。本書を読んで、『三国』は三省堂のナンバー1の国語辞書、三国一の国語辞典と言っていいかも・・・と、いま思っている。

三省堂国語辞典 第七版

三省堂国語辞典 第七版

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 三省堂
  • 発売日: 2013/12/11
  • メディア: 単行本



新明解国語辞典 第七版

新明解国語辞典 第七版

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 三省堂
  • 発売日: 2011/12/01
  • メディア: 単行本



大辞林 第三版

大辞林 第三版

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 三省堂
  • 発売日: 2006/10/27
  • メディア: 大型本


続きを読む


トラックバック(0) 
共通テーマ:

『日本語で一番大事なもの』 大野 晋・丸屋才一 中公文庫 [日本語・国語学]


日本語で一番大事なもの (中公文庫)

日本語で一番大事なもの (中公文庫)

  • 作者: 大野 晋
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2016/12/21
  • メディア: 文庫



古語辞典編纂者で日本語の権威 大野 晋と J・ジョイス研究家であり作家・翻訳家でもある丸谷 才一による"異色対談"程度に思って手にしたのだが、その中身は「日本語で一番大事なもの」をめぐるこく深いものであった。

「日本語で一番大事なもの」とは助詞・助動詞をさす。つまり「てにをは」のことである。それが日本語の特徴であることは以前から聞いてきた。それで、古書店から『古典語現代語 助詞助動詞詳説 松村明編(學燈社)』など購入したが、まったくの積読状態であった。

本書の「解説1990」で大岡信はいう。《「てにをは」が日本詩歌の鍵をにぎっている・・/ 日本語が微妙な揺れ、陰影に富んだ表現を得意とするのも、「てにをは」の精妙な働きのためである》。本書は《「てにをは」の重要性と面白さを徹底追及した本で、かつてこのような機智と説得力に富んだ文法の書が書かれたことは一度もなかったと言っていい》。

本書には、辞典や文法書には収めきれない内容が盛られている。逆をいえば、これだけの濃くふかい内容をカットしたうえで辞典やテキストは成立しているということだ。特に、「日本語で一番大事なもの」が歴史上どのように変遷してきたか、文法事項としてある区分・用語に括られまとめられてはいるものの例外もあって説明のむずかしいものなどの話が、よい対話者である丸谷によって引き出されていく。日本語から見える日本人の思考様式もあぶりだされる。

大岡は最後にいう。《この本を読んで文法好きになる青年たちがたくさん出たら大したことだと思うが、私はまた、学校で文法にはつくづく参らされた思い出をもつ実にたくさんの元生徒、元学生たちが、この本を読んで得るであろうものの大きさにも、愉快な気持ちで思いを馳せずにはいられない》。


古典基礎語辞典

古典基礎語辞典

  • 作者: 大野 晋
  • 出版社/メーカー: 角川学芸出版
  • 発売日: 2011/10/20
  • メディア: 単行本



岩波 古語辞典 補訂版

岩波 古語辞典 補訂版

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1990/02/08
  • メディア: 単行本


続きを読む


トラックバック(0) 
共通テーマ:

『日本文法体系 (ちくま新書 1221)』 藤井 貞和著 筑摩書房 [日本語・国語学]


日本文法体系 ((ちくま新書 1221))

日本文法体系 ((ちくま新書 1221))

  • 作者: 藤井 貞和
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2016/11/08
  • メディア: 新書



以下、上記書籍『はじめに』からの引用全文

**********

文法は網羅的であるのがよい。体系的であることが分かるような順序の叙述にしたい。日本語文法を成り立ちから考え直す。古文の読みが愉しくなるのではないかという工夫を、そこここに鏤(チリバ)めてある。

学校文法からすこし離れる内容のように見えても、だれもが困っている文法事項には(私じしんがいちばん困ってきたことだから)、懇切に解説をほどこしたい。

手元にある高校生向けの教科書『古典文法』のはしがきに、〈ところで、現行の学校文法は数十年の間、足踏み状態にあ〉る、と書かれている。足踏み状態から一歩を踏み出すために本書は書かれる。

本書の特色を簡潔に言うと、自立語、つまり名詞や動詞その他が展開する、彩り豊かで多様な意味世界と、意味世界の論理を下支えする自立しない語たち(非自立語、助動辞と助辞)の機能的表現とを、分けようとするところにある。

助動辞(助動詞のこと)や助辞(おなじく助詞)の一つ一つに、テクスト上で出会うたびに、その機能語としての役割を問いかけながら、私はいまに至る。『文法的詩学』(笠間書院、2012)、『文法的詩学その動態』(同、2015)で記述した内容を新たに考察し直して、コンパクトに纏めることにした。

『古文の読み方』(岩波ジュニア新書、1984)で学んでくれた中学生、高校生たちはいま、壮年にあり、中年期にさしかかる。気分を新たに学び直したいというかれらの希望を聞くと、本書に取り組む勇気が湧いてくる。

助動辞たちは、「き」 も 「り」 も 「む」も、それに 「けり」にせよ、「ぬ」にしろ、「つ」にしろ、史前史的な変遷史を越えていまにやってきたろう。文献時代にはいってからも変様を見せたり、新たに誕生したりする助動辞はまた多種あり、助辞の類に至ってならば、さらに遠くからやってきた。

八品詞および助動辞/ 助辞は、数千年にわたる言語史的な動態のさなかから “決定”され、われわれの眼前に “浮上”したのであって、“八品詞”ならびに“助動辞/ 助辞”、およびそれらの繋がり方の考察が、たぶん最も有効な体系を提供することだろう。なんだ、伝統文法へ帰れという勧めではないか。たぶん、伝統文法には貴重な知見が詰まっている。

古文のテクストは、私の場合、物語や詩歌を相手にすることが多いので、おのずから物語の文法体系および詩歌のそれが中心になる。日常世界では物語の文法や詩歌のそれで話したり語ったりすることがあるから、談話の文法体系も視野から逸らしていない。物語じたいが会話文や詩歌の集積だから、言語の日常的な在り方を追跡する作業にもなった。

序章を導入部とし、第1~6章を “助動辞/ 助辞”論とし、第7~8章において自立語群の文法的性格を見直し、終章で詩歌をめぐり、文法の真相(-深層)に至る。「おわりに」で正書法にふれよう。


文法的詩学その動態

文法的詩学その動態

  • 作者: 藤井 貞和
  • 出版社/メーカー: 笠間書院
  • 発売日: 2015/02/10
  • メディア: 単行本



古文の読みかた (岩波ジュニア新書 76)

古文の読みかた (岩波ジュニア新書 76)

  • 作者: 藤井 貞和
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1984/05/21
  • メディア: 新書



トラックバック(0) 
共通テーマ:
前の10件 | - 日本語・国語学 ブログトップ